相続財産(遺産)の種類と調べ方の概要

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相続財産の種類と正確に調査する方法を理解することは、公平かつスムーズな相続手続きを行い、相続に関する紛争を適切に解決するためには不可欠です。例えば次のような画面では、相続財産の内容が重要な判断材料となります。

  1. 遺産分割における具体的相続分の算定や各相続人の取得財産の配分協議
  2. 遺留分侵害額の算定
  3. 相続放棄や限定承認をするかどうかの方針決定
  4. 遺言による財産の分配方針の決定

この記事では、代表的な相続財産の種類とその調べ方の概要について弁護士が解説します。

相続財産(遺産)とは

(相続の一般的効力)
第八百九十六条 相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。

相続人は、原則として、被相続人の財産に属した一切の権利や義務を承継します。ここで相続人が被相続人から引き継ぐ権利義務のことを、相続財産(遺産)といいます。

一般に、「財産」というと、いわゆるプラスの価値を有する権利だけを想像する方が多いかと思いますが、上の規定からわかるとおり、相続財産には被相続人の借金のようなマイナスの経済価値を有する義務も含めて考えることになります。また、被相続人が締結していた様々な契約上の地位(例:収益ビルの貸主としての地位)もまた、相続財産を構成するということができます。

なお、上の規定の但書きにもあるように、被相続人に属していた財産であっても、被相続人の一身に専属したものは相続人に承継されず、相続財産とはなりません。例えば、生活保護の受給権のような社会保障上の権利や、扶養請求権、著作者人格権、雇用契約上の権利(すでに発生した未払給与などの具体的権利は除きます)などは相続性のない一身専属の権利とされています。

代表的なプラスの相続財産(積極的相続財産)

まずは、代表的な相続財産のうちプラスの経済的価値を有する財産(積極的相続財産)の種類について、その調べ方とともに説明します。

被相続人が死亡した時点で、被相続人に帰属していた次のような財産は、相続財産となります。

不動産

これには被相続人が所有する、自宅や収益物件(貸し地、貸アパート、貸ビル)にかかる土地・建物が含まれます。なお、不動産の所有権そのものでなくとも、借地権や借家権については財産的価値のある立派な相続財産ということができます。

相続人が被相続人の所有不動産を調査するには、納税通知書と権利証(登記識別情報)の確認が有効です。納税通知書は、固定資産税や都市計画税の税額を通知するために、毎年不動産の所有者のもとに役所から送られる書類で、課税されている不動産が記載されています。権利証は登記済みの権利情報を示すもので、納税通知書には記載されない私道や墓地など非課税の不動産の確認に役立ちます。権利証は自宅の金庫などに保管されていることも多いため、探してみることをおすすめします。なお、不動産の所在について推測が可能ならば、所在地の市町村の役場や都税事務所で名寄帳(なよせちょう)を取得してみるのも有効です。

また、貸地や貸アパート、貸ビルのような収益物件に関しては、被相続人名義の預貯金通帳に管理会社や賃借人からの地代・賃料が振り込まれた記録があれば、その振込人から情報を得ることで存在が判明することもあります。

金融資産

これには、現金や預貯金のほか、上場株式、投資信託、債券(国債・社債など)、積立型ファンドなどの金融商品、ビットコインやイーサリアムなどの仮想通貨(暗号通貨)などが含まれます。

現金であれば、被相続人の自宅のタンス・クローゼットや金庫内に保管されているケースがよくありますので探索をしてみてください(被相続人が高齢の場合、現金への信用が厚い方が多く、中には自宅に数千万単位の現金が保管されていたということもありました)。また、預貯金や上場株式、その他の金融商品については、これらを取り扱う銀行や証券会社などの金融機関、仮想通貨を預かる取引所等へ相続人として紹会をすることにより調査することが基本となります。最近では、通帳を発行しない金融機関もありますので、通帳の有無だけでなく、金融機関からの郵便物や、被相続人の自宅にある金融機関のカレンダーなどから口座の存在を推測して調査することも有用な場合があります。

動産

これには、自動車、ジュエリー、美術品、刀剣類、骨董品などが含まれます。

自動車については、車検証のほか、自動車税の納税通知書や、損害保険の保険証券などから調査することができます。その他の美術品や宝石などの動産については、自宅内や、銀行の貸金庫等に保管されている可能性や、貴重品の保管サービスを事業として営む企業などに預託されているというケースもあります。

被相続人の事業に関わる財産

被相続人が個人事業主であった場合、当該事業に関する在庫や売掛金、貸付金、損害賠償請求権、不当利得返還請求権、知的財産権(著作権や特許権等)が相続財産に含まれます。

また、被相続人が自身の事業を株式会社その他の法人として営んでいたという場合には、当該法人の株式や出資持分自体が相続財産を構成することになります(逆に、当該法人に帰属する売掛金や法人名義の預貯金などは、当該法人の株式等の価値を裏付けるものとなりますが、被相続人個人の相続財産となるものではありません。)。

相続人が被相続人の事業に全く関与していない場合には何をどう調べるべきか悩むこともあるかもしれませんが、その調査においては、被相続人が当該事業に関して作成していた帳簿や決算関係書類が出発点となります。相続人の税理士などに依頼していた場合、その税理士を通じて書類を取得することができる可能性が高いのでまず相談してみることが有効です。

代表的なマイナスの相続財産(消極的相続財産)

次に、相続開始時点で被相続人に帰属していたマイナスの経済的価値を有する財産(消極的相続財産)の代表例を見ていきましょう。

借入金(ローン債務)

これには、住宅ローン、アパートローンを始めとした金融機関からの借入金、知人や友人などからの借入金などが含まれます。

被相続人の生前、預貯金口座から返済のための送金がなされていた場合は、通帳を確認するなどして送金先に問い合わせることによって、借入金の存在や残高を調査することができます。また、金融機関からの借り入れであれば、加盟会社の信用情報をとりまとめている信用情報機関に相続人として情報の照会を行うことにより、被相続人の加盟会社に対する債務の状況を把握できることもあります。

なお、相続人がローンの借入にあたり団体信用生命保険(いわゆる「団信」)に加入している場合には、被相続人の死亡に伴って、生命保険金によりローンの一部または全部が返済される場合がありますのでこの点の確認も必要です。

保証債務

保証とは、簡単に言えば、債権者に対し本来債務を返済すべき人(主債務者)による返済が滞る場合に備えて、同じ債務について別の人が返済を約束することであり、その別の人を保証人、保証人が負う義務のことを保証債務といいます。よくあるケースとしては、被相続人が自ら経営していた会社を主債務者とする借入について、被相続人個人が連帯保証人として保証債務を負っているという事例です。

保証債務については、身元保証の保証債務や、極度額の定めがない根保証の連帯債務のうち相続発生時点で未発生のものなど、被相続人にとってあまりにリスクの大きいものは相続の対象とならないものとされていますが、すでに具体的な金額も定まっている特定保証や極度額の定めがある根保証の連帯保証債務に関しては、相続の対象となるものとされています。

買掛金・未払金など

クレジットカードなどのショッピング利用残高や、被相続人が個人で営んでいた事業における仕入代金などは、被相続人の債務として消極的相続財産を構成します。

その他、電気代、ガス代、水道代、携帯電話料金、未払いの税金なども消極的相続財産を構成します。

注意が必要な財産の例

以下のような財産については、一見すると当然に相続財産に含まれるようにも思われますが、法律上は、「原則として相続財産とはならない」、あるいは「相続財産となる場合もあるがそうでない場合もある」など、相続財産に含まれるかどうかについて注意が必要です。

生命保険金 受取人が指定されている場合、原則として相続財産ではなく、取得者の固有財産となります※1
傷害保険金 同上
死亡退職金 同上
ゴルフ会員権 規約の内容により相続性が左右されます。
継続的な保証債務 一定のものについては相続性が否定されます。
祭祀財産 相続財産とはならず、家庭裁判所が審判により承継者を決めます。

※1 参考:生命保険金(死亡保険金)と遺産相続相続放棄と生命保険を使って家族を守る方法を弁護士が解説

「みなし相続財産」とは

民法上は、相続財産に含まれないが、税法との関係で、相続税の課税対象となる可能性があります。このような財産を「みなし相続財産」といいます。

みなし相続財産の代表例としては、死亡退職金や生命保険金などが挙げられます。これらの財産については、民法上、つまり遺産分割や遺留分侵害額などが問題になる局面においては、原則として相続財産ではなく、これを受け取る人の固有財産として取り扱われることがほとんどです。しかし、税法上、相続税申告の局面においては、これらの財産を相続財産とみなして相続税の計算を行うことになります。

みなし相続財産の存在を除外して相続税の計算をしてしまったため、実際には相続税の申告納税義務があるのに、義務がないと誤解して申告を怠ってしまった場合、後から思わぬ不利益を被ることもあり得ます。また、みなし相続財産も民法上の相続財産であると誤解したために、本来より不利な遺産分割を強いられるということもあります。

こうした事態に陥らぬよう、みなし相続財産については是非一度専門家に相談するようにしてください。

相続財産(遺産)調査の結果は「財産目録」で整理を

上記に見たような相続財産の存在がわかった場合には、その調査の結果を相続財産目録にまとめ、整理することをお勧めします。

相続財産目録とは、被相続人の相続財産をリスト形式にして、その内容が一覧でわかるように整理したもののことをいいます。

例えば、共同相続人間で遺産分割協議を行う場合にも、財産目録を活用することで、相続人間の認識の齟齬を防止し、話し合いをスムーズに進めることが可能となります。なお、相続人が生前に遺言書を作成する等の目的で、自身の財産を整理して目録にしておくと、相続開始後の諸手続きが行いやすくなるでしょう。

まとめ

以上、本記事では、相続財産とは何か、代表的な相続財産種類でした調査方法、相続財産ではないが相続税の課税対象となるみなし相続財産、相続財産の内容をまとめた財産目録などについてご説明しました。

本記事が、このウェブサイトをご覧の皆様による公平かつスムーズな相続問題解決のお役に立てば幸いです。

宮嶋太郎
代表パートナ弁護士
東京大学法学部在学中に司法試験合格。最高裁判所司法研修所にて司法修習(第58期)後、2005年弁護士登録。勤務弁護士を経験後、独立して弁護士法人ポートの前身となる法律事務所を設立。遺産相続・事業承継や企業間紛争の分野で数多くの事件を解決。

私たちが丁寧にわかりやすくお話します。

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