生命保険金(死亡保険金)と遺産相続

自営業で飲食店を経営していた父(A)が先日亡くなりました。私(B)と弟(C)が相続人でしたが、父には事業で作った多額の負債があったため、私は相続放棄をしました。その後、父が生命保険に加入し、私を受取人に指定していたことがわかったのですが、私は生命保険金を受け取ることができるのでしょうか。

生命保険と相続財産

生命保険契約に基づく死亡保険金

生命保険契約(死亡保険契約)について

生命保険金は、生命保険契約に基づいて支払われる保険金です。そして、生命保険契約は、一般に、次のような特徴のある契約として理解されています。

  1. 被保険者とされる特定の人物の生死を保険事故とする
  2. 保険事故が発生した場合に契約所定の金銭が受取人に支払われる
  3. 保険契約者が保険者に対し保険料を支払う

生命保険契約の保険金受取人

生命保険契約では、保険契約者が保険金の受取人を指定します。この指定は、契約時に行うのが一般的ですが、その後保険会社で手続きをすることにより、受取人を変更することも可能です。遺言で受取人の指定を変更することも可能です(保険法44条1項)。

受取人の指定は、特定の人物(2親等以内の親族に制限する保険会社が多い)を受取人とする場合のほか、そもそも指定をしない場合や、単に「相続人」などと抽象的な指定がされる場合もあります。

なお、保険契約者・被保険者・受取人の組み合わせがどうなるかによって、保険金にかかる税金が異なる種類(相続税・所得税・贈与税等)となりますので、ご注意ください。

生命保険金は相続財産か

では、被保険者である被相続人の死亡について支払われる生命保険金は、被相続人の相続財産に含まれるでしょうか。

この点については、生命保険金は、原則として相続財産には含まれないと理解しておくとよいでしょう。

もう少し詳しくみていきます。

特定の者を受取人としていた場合

まず、配偶者や長男など、特定の受取人を指定していた場合、生命保険金(正確には保険金請求権)は、被保険者の死亡により、保険契約の効力として直接に受取人に帰属し受取人の固有財産となるため、被保険者の相続財産となることはないとされています。

その他の場合

次に、受取人を単に「相続人」としたり、そもそも指定をしなかったような場合ですが、これらのケースでも、受取人の指定に関する意思解釈を介することにより、生命保険金は保険契約者の法定相続人に直接帰属しその固有財産となるものと理解されています。したがって、生命保険金が相続財産となるものではありません。

また、被保険者兼契約者が、保険金の受取人を「本人」などとしていた場合にも、保険契約者の意思の合理的解釈により、被保険者が満期後に死亡したような場合を除き、やはり上記と同様に考えられています。

遺産分割における生命保険金の取り扱い

生命保険金が被相続人の相続財産とならないとすると、遺産分割手続きではこれをどのように扱うことになるでしょうか。

遺産分割の対象財産からは除外

遺産分割は、相続財産のうち、遺産共有状態となっている財産を分割して、各相続人の単独取得あるいは一般の共有関係とするための手続きです。したがって、そもそも相続財産に当たらない生命保険金請求権は、遺産分割の対象となることはありません

もっとも、受取人となった相続人が、取得した生命保険金の一部または全部を、代償分割において支払う調整金の原資として利用すること等は当然に可能です。

特別受益の算定上考慮されるか

遺産分割における各相続人の具体的な相続分の算定においては、特定の相続人が得た特別受益が、いわゆる持戻し計算の対象となります。生命保険金についてはどのように考えればよいでしょうか。

この点については、最高裁判決(平成16年10月29日)があり、次のような判断を示しています。

  1. 養老保険契約に基づき受取人とされた相続人が得る死亡保険金は、原則として民法903条の特別受益とならない。
  2. もっとも、保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合には、同条が類推適用され、特別受益に準じて持戻しの対象となる。

要するに、現在の判例では、生命保険金は原則として特別受益ともならないが、例外的に、そのままでは共同相続人間の不公平が著しくなる場合には特別受益に準じた取扱いを受けるということになります。具体的にどの水準となれば特別受益となるかについては、個別にご相談下さい。

相続放棄と生命保険金

受取人が相続放棄をしたという事情が、生命保険金を受け取る権利に影響するかという問題です。相続放棄については、次のような規定があることから検討をしておきます。

第九百三十九条(相続の放棄の効力)
  • 相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。

結論からいえば、相続放棄は受取人の生命保険金請求権に何ら影響しません。前述のとおり、生命保険金は相続財産ではなく、生命保険契約の効力によって直接受取人の固有財産となるからです。

また、生命保険金を受け取ったという事実が、法定単純承認事由となり、相続放棄の効力が覆されるということもありません。

したがって、設問のケースでも、B氏はA氏が加入していた生命保険の死亡保険金を受け取ることができます。

参考:相続放棄と生命保険を使って家族を守る方法を弁護士が解説

受取人が「相続人」と指定されていた場合は?

設問ではB氏という特定の人物が受取人として指定されていましたが、受取人が単に「相続人」と指定されていた場合はどうなるでしょうか。結論としては、この場合も、通常、相続放棄をした相続人が生命保険金を受け取ることは可能です。「相続人」との指定は、被保険者死亡の時点で相続人たるべき者個人を指定する趣旨であって、その後も相続資格を保持し続ける者(相続放棄しない者)を意味するのではないと解釈されるからです。

宮嶋太郎
代表パートナ弁護士
東京大学法学部在学中に司法試験合格。最高裁判所司法研修所にて司法修習(第58期)後、2005年弁護士登録。勤務弁護士を経験後、独立して弁護士法人ポートの前身となる法律事務所を設立。遺産相続・事業承継や企業間紛争の分野で数多くの事件を解決。

私たちが丁寧にわかりやすくお話します。

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