遺産分割の対象となる財産の範囲

遺産分割とは、被相続人の遺産に含まれる個々の財産の権利者を確定させるための手続きのことです。したがって、遺産分割手続きでは、「何を協議のテーブルに乗せるのか」、つまり分割対象となる財産の範囲を確定することが話し合いの第一歩として重要です。

では、そのような財産にはどのようなものがあるでしょうか。このページでは、遺産分割の対象となる財産についての基本的な考え方に加え、注意しておくべき財産について概説します。

基本的な考え方

ある財産が遺産分割の対象となるかどうかについては、基本的に、以下の条件を満たす必要があると考えられています。以下、順番に説明します。

遺産分割対象財産の条件

  1. 被相続人の死亡時に存在したこと
  2. 被相続人の死亡時に被相続人に帰属していたこと
  3. 遺産分割時にも存在すること
  4. 未分割であること
  5. 積極財産であること

1. 被相続人の死亡時に存在したこと

財産が遺産分割の対象となるためには、被相続人の死亡時に実際に存在していた必要があります。例えば、被相続人の死亡直前に被相続人名義の口座から引き出された預貯金は、原則として、預貯金としては遺産分割の対象にはなりません(遺産分割当事者合意によって分割対象財産とすることは可)。

2. 被相続人の死亡時に被相続人に帰属していたこと

財産が被相続人の死亡時に、被相続人に帰属していた必要があります。例えば、被相続人が生前に贈与した財産は、具体的な相続分を算定するに当たり特別受益として持戻し計算の対象となり得るとしても、死亡時に被相続人に帰属していた財産ではないため、それ自体が分割の対象となることはありません。

3. 遺産分割時にも存在すること

被相続人の死後に売却されたり、消滅した財産は遺産分割の対象にはなりません。たとえば、死後に売却された美術品や、被相続人の死後に火事で焼失した不動産などは、遺産分割時には存在しないため、対象外となります。

4. 未分割であること

すでに先行して分割されたり、特定の人に最終的な帰属が決定している財産は、遺産分割の対象外です。例えば、被相続人が知人に貸していた貸付金債権は可分債権であり相続開始により当然に分割されるため、遺産分割の対象となりません。被相続人の生前に行われた遺言により特定の相続人に指定された不動産なども分割の対象から除外されます。

5. 積極財産であること

遺産分割の対象となるのは、積極的な価値を持つ財産、つまり資産の部分です。負債や借金は、相続と同時に法定相続分に従って当然に分割されます。したがって、原則としてこれら消極財産は遺産分割の対象とはなりません。但し、当事者の合意により分割協議の対象に含めることは可能です。

遺産分割の対象になる財産

不動産

被相続人が所有していた土地や建物といった不動産は、相続開始と同時に共同相続人の共有状態となります。したがって、その最終的な権利帰属を確定させるために、不動産は遺産分割の対象財産となります。但し、遺産分割までの間に相続人全員でこれを第三者に売却した場合、その代金を遺産分割の対象とする合意のない限り、その代金債権は遺産分割の対象からは除外されます。

賃料収入はどうなる?

被相続人が賃貸マンションや貸ビル・貸地などの収益不動産を所有していた場合、被相続人の亡くなった後も当該不動産からの賃料収入が発生します。このような相続開始後の地代・家賃収入については、判例上、遺産分割の対象とはならないと考えられています。これらは相続開始によって共有状態となった不動産の共有者が固有に取得するものであり、そもそも遺産ではないという理由です。

借地権

被相続人が借地上に建物を所有していたような場合、建物のみならず、当該敷地に対する借地権も相続財産として取り扱われ、遺産分割の対象となります。

  1. 借地権の遺産分割

動産

被相続人が所有していた自動車や宝石、骨董品などの動産も、不動産と同様、相続開始と同時に共同相続人の共有となります。

預貯金

預貯金は、従来、相続開始と同時に法定相続分に応じて当然に分割される可分債権であり、原則として、遺産分割の対象とはならないと解釈されてきました。しかし、最高裁平成28年12月19日大法廷決定により判例が変更され、現在は、当然には分割されず、相続人の同意の有無にかかわらず遺産分割の対象になるものと解されています。

  1. 相続財産となる預貯金の取り扱いに関する判例変更。共同相続された預貯金は遺産分割の対象になります。

現金

現金については、当然分割されるものではないため、遺産分割の対象となると考えられています。したがって、被相続人が金庫に残した現金を管理している他の相続人に対し、遺産分割前に自己の相続分に応じた一部を引き渡すよう要求することは通常困難です。

株式・出資持分

被相続人が株式の取引をしたり、株式会社を経営していた場合などに保有していた株式については、共同相続人による準共有状態にあるものとして、遺産分割の対象となります。株式には、会社から配当を受け取る権利を含みますが、他方で株主総会に出席して議決権を行使するなどの共益権を含むものであり、単純な金銭債権のように当然に分割されるとはいえないためです。有限会社(正式には特例有限会社といいます)の出資持分についても同様です。

  1. 株式の相続と遺産分割

原則として遺産分割の対象にならない財産

相続債務

遺産分割は積極財産の最終的な帰属者を確定する手続きであり、相続債権者に無断で負担割合を調整することもできないため、被相続人名義の借入金や保証債務などの相続債務は遺産分割の対象とはなりません。

生命保険金など相続財産性が否定されるもの

生命保険金は、受取人固有の権利であり、そもそも相続財産には当たらないのが通常です。遺産分割は相続財産の最終的な取得者を決める手続きですので、こうした相続財産に含まれない権利については、基本的に遺産分割の対象とはなりません。

相続人の合意による組み入れ

これまでは、各財産の性質に着目して、遺産分割の対象となるかどうかの法的な枠組みについて説明してきました。しかし、各財産の性質上遺産分割の対象とならない財産であっても、遺産分割の当事者である共同相続人が合意する限り、これを遺産分割の対象とすることができる財産もあります。例えば、

  1. 貸付金
  2. 消費者金融取引の過払金などの不当利得債権
  3. 交通事故賠償金などの不法行為債権
  4. 相続開始後の賃料
  5. 相続債務

などについては、当然には遺産分割の対象となるものではありませんが、相続人間でこれらを含めて遺産分割を行うことを合意し、分割対象となる財産の範囲を拡大することによって、各事案の実情に応じた柔軟な解決の道を探ることができます。

もっとも、遺産分割の対象に含める旨の共同相続人の合意によっても、遺産分割審判では分割の対象として取り扱ってもらえないものもあるので注意しましょう。

遺産分割の対象財産かどうかで迷ったら

この記事では、遺産分割の際に対象となる財産の範囲について詳細に解説しました。遺産分割の対象となる財産は、被相続人の死亡時に存在し、かつ、被相続人に帰属していたものに限られます。また、遺産分割時にも存在し、未分割であり、積極財産である必要があります。

具体例として、不動産、動産、預貯金、現金、株式・出資持分など、多岐にわたる財産が遺産分割の対象となり得ることが明らかになりました。しかし、相続債務や生命保険金などは原則として遺産分割の対象外です。重要なのは、相続人間での合意により、通常は遺産分割の対象とはならない財産も分割の対象に含めることが可能であるという点です。

遺産分割は複雑であり、法律的な知識が必要となることが多いため、遺産分割の対象財産について疑問や迷いがある場合は、弁護士に相談することをお勧めします。特に、弁護士法人ポートでは、遺産相続に関する豊富な経験と専門知識を持ち合わせており、公平で円滑な遺産分割の実現のため、あなたのケースに合わせた具体的かつ適切なアドバイスを提供します。

宮嶋太郎
代表パートナ弁護士
東京大学法学部在学中に司法試験合格。最高裁判所司法研修所にて司法修習(第58期)後、2005年弁護士登録。勤務弁護士を経験後、独立して弁護士法人ポートの前身となる法律事務所を設立。遺産相続・事業承継や企業間紛争の分野で数多くの事件を解決。

私たちが丁寧にわかりやすくお話します。

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