遺産分割における非上場株式の評価

被相続人の父(A)が亡くなりました。生前の父は食品の製造販売を行う株式会社を経営しており、その株式が遺産の大部分を占めます。既に母は亡くなっているため、兄(B)と私(C)で遺産分割協議を行うことになりますが、株式の評価について意見が対立しています。どのように解決すればよいでしょうか。

遺産分割における非上場株式の評価

非上場株式の評価と遺産分割

被相続人が生前に同族会社を経営してい場合など、遺産の中に非上場会社の株式が含まれていることがあり、この非上場株式についても、遺産分割の対象となります。これは上場株式の相続の場合と同様です。

しかし、非上場株式の場合、市場価格が形成されており評価の簡単な上場株式とは異なり、その評価には見解の対立が起きやすいという特徴があります。特に、事業承継のため、一部の相続人のみが株式を全部取得するような遺産分割がなされる場合、これをどのように評価するかという点は、その他の遺産の取得結果や代償金の多寡に大きな影響を及ぼすことから、深刻なトラブルの原因となることがあります。

以下では、遺産分割における非上場株式の評価について見解の対立が生じた際の解決方法について、弁護士が概説します。

誰が未上場株式を評価するか

裁判所外で税理士・会計士に評価を依頼

非上場株式の評価は、通常、会社の会計資料に基づいて行われます。このため、相続人間に評価額に関する見解の対立がある場合には、税理士や会計士といった会計の専門家に対し、非上場株式の評価を依頼することが一般的です。

この点、相続人が合意の上で、会社の顧問税理士や顧問会計士の先生に依頼することができれば、全く関係のない専門家に新規で依頼する場合に比べて、評価に要する手間が省け、費用を少額に抑えられる可能性があります。

もっとも、会社の顧問税理士等がそもそも株式の評価に不慣れである場合や、経営権を承継予定の一部相続人との繋がりが強く公平な評価を期待できないというような場合には、他の相続人が評価依頼に反対することもあります。そのようなケースでは、第三者的な立場の専門家への依頼を検討することになります。

裁判所で鑑定

遺産分割調停遺産分割審判に際し、非上場株式の評価が問題となる場合には、裁判所の鑑定手続きを利用することができます。

この場合には、裁判所が選任した鑑定人(多くは公認会計士)が、当事者より提出された会社の会計資料を前提に評価を行うこととなります。

鑑定に要する費用は、事前に遺産分割の当事者が分担して予納することが一般的です。また、鑑定に先立ち、鑑定結果には互いに異議を述べない旨の合意がなされることも多くあります。

評価費用が高額となるケースも

専門家に非上場株式の評価を依頼する場合の費用ですが、評価のためにどの程度の作業が必要かによって金額は異なってきます。特に、株式評価の対象となる未上場会社が多数の不動産を所有している場合などには、会社資産である不動産の評価のために不動産鑑定士が別途鑑定を行う必要があり、費用が高額となりがちです。

非上場株式の評価方法

遺産分割における非上場株式の評価では、相続税申告における非上場株式の評価方法が参考にされることが一般的です。もっとも、税法上の株式評価は、あくまで国家と国民(納税者)との間の課税関係を律する基準となるものであり、遺産分割という私人間の利害対立の解決を目的とするものでないため、税法上の評価が遺産分割における評価に直結するものでないという指摘があることには注意が必要です。

評価方式

相続税法上の非上場株式の評価では、国税庁が定める財産評価基本通達(国税庁のサイト)の取り扱いが基本とされ、会社の従業員数や取引規模に応じ、以下のような評価方式が採用されます(複数が併用されることもあります)。

  1. 純資産価格方式:会社の純資産価額から負債等を控除した純資産価額を発行済株式数で除して評価する方法
  2. 類似業種比準方式:評価対象会社と業種や規模等が類似する公開会社の株価等との比較により、株価を評価する方法
  3. 配当還元方式:会社の配当金額を基準として、これを発行済株式数で除して評価する方法

株価評価のための必要書類

株式評価を行うにあたっては、様々な資料の提出が必要となります。会社の事業内容や資産構成によって求められる書類は異なりますが、以下の資料については、通常提出を要求されることになりますので、準備をしておくとよいでしょう。

  1. 株主名簿
  2. 決算書
  3. 法人税・地方税・消費税の確定申告書

まとめ

遺産に含まれる非上場株式の評価は、遺産分割の場面はもちろん、遺留分減殺請求が問題となる局面でも重要な論点となることが少なくありません。

また、我が国の中小企業経営者の高齢化にともない事業承継対策の必要性が叫ばれる今日では、普通株式のみならず議決権を制限した種類株式など、特殊な株式が発行されているケースもあり、非上場株式の評価を巡る議論は次第に複雑になりつつあります。

現実の遺産分割や遺留分減殺の問題でお困りの方はもちろん、今後の事業承継・相続対策をお考えの企業経営者の方におかれましては、独自の判断で行動して大きな失敗をすることを避けるためにも、ぜひ専門家への相談を行った上でこれらの問題を解決することをお勧めします。

宮嶋太郎
代表パートナ弁護士
東京大学法学部在学中に司法試験合格。最高裁判所司法研修所にて司法修習(第58期)後、2005年弁護士登録。勤務弁護士を経験後、独立して弁護士法人ポートの前身となる法律事務所を設立。遺産相続・事業承継や企業間紛争の分野で数多くの事件を解決。

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