相続人に行方不明者がいる場合の遺産分割

先日父が亡くなり遺産分割の手続きを行いたいと思っています。相続人は、母と私のほかに、父と前妻との間の子がいるのですが、前妻の子は以前から行方不明となっています。今後、どうやって遺産分割の手続をすすめていけばよいでしょうか。

行方不明の相続人の捜索

遺産分割協議は相続人全員の合意によって成立させる必要があります。したがって、行方不明の相続人がいる場合に、この相続人を除外して作成した遺産分割協議書は無効です。遺産分割調停を起こすにしても、その相続にを相手方にする必要があります。このため、有効な遺産分割協議を成立させるためには、まずは行方不明の相続人を探すことから始めましょう。行方不明の相続人を捜す方法としては、例えば次のような方法が考えられます。

自分で探す

まずは、共通の親戚や知人などを辿って、ご自身で行方不明者の所在を確認する方法が考えられます。最近では、facebookやtwitterなどのSNSなどを利用している方も多いことから、このようなツールを活用して手がかりがつかめる場合もあります。

警察に捜索を依頼

警察に行方不明者の捜索を依頼する方法です。犯罪に巻き込まれた可能性が高いなど、事件性がある場合には積極的な捜索がなされる場合もありますが、一般の家出人として扱われてしまい、積極的な捜索がなされない例が大半であるため、実効性はあまり高くありません。

探偵や興信所の利用

行方不明者の人捜しを専門とする探偵や興信所の利用も考えられます。もっとも、この方法では、捜索のために高額な費用が必要となることもあり得ますので、利用の際にはどのような活動によってどの程度の金額を請求されるのかをしっかりと確認してから依頼するようにしてください。

弁護士に依頼

弁護士は人捜しを直接の業務とするものではありません。しかし、遺産分割の前提となる相続人調査の一環として、職務上請求により、行方不明となっている相続人の戸籍の附票等を取寄せることによって現在の住所地が判明することがあります。

行方不明者に対する失踪宣告

行方不明の相続人がどうしてもみつからないときには、失踪宣告の制度を利用することが考えらます。失踪宣告とは、行方不明者の利害関係人が家庭裁判所に失踪宣告の申立てをすることによって、当該行方不明者につき法律上死亡したものとみなす審判を得る制度です。

失踪宣告が利用できる場合

失踪宣告が利用できるのは、次のような場合です

  1. 行方不明者の生死が7年間明らかでない場合(この場合の失踪を普通失踪といいます)
  2. 戦争、船舶の沈没、震災などの危難に遭遇し、行方不明となった場合(この場合の失踪を危難失踪といいます)

これらの場合、利害関係人の申立によって家庭裁判所が事実関係の調査を行い、その後、公示催告(裁判所の掲示板への掲示・官報への掲載)を経て、失踪宣告の審判が出されることになります。

失踪宣告がなされた後の遺産分割はどうなるか

家庭裁判所による失踪宣告がなされることにより、失踪者の実際の生死の有無とは関係なく、失踪者は法律上死亡したものとみなされます。死亡の時期については、普通失踪の場合は行方不明となってから7年間が経過した時に、危難失踪の場合はその危難が去った時に死亡したものとして取り扱われます。

失踪者が被相続人の相続開始前に死亡したとみなされる場合

この場合、失踪者は被相続人の遺産について相続権を取得する前に死亡したと取り扱われます。したがって、被相続人との関係では、当該失踪者に子供がいるときには、失踪者の子供が代襲相続人となりますので、この者を交えて遺産分割協議を行います。一方、失踪者に子供がいない場合には、他の相続人全員で遺産分割をします。

失踪者が被相続人の相続開始後に死亡したとみなされる場合

この場合、失踪者が一度被相続人の遺産について相続権を取得した後に、死亡したという扱いとなります。したがって、当該失踪者に相続人がいるときは、当該相続人を交えて被相続人の遺産分割をします。一方、失踪者に相続人がいない場合には、家庭裁判所に対して相続財産管理人の選任を申立てたうえ、当該相続財産管理人を交えて遺産分割をします。 

不在者財産管理人を介した遺産分割

不在者財産管理制度とは、行方不明となった者(不在者といいます)の有する財産につき、家庭裁判所から選任された者(不在者財産管理人といいます)が不在者に代わり、その財産を管理するという制度です。

行方不明者が姿を消した後7年以上が経過していない場合には、失踪宣告の制度(普通失踪)は利用できません。そこで、このような場合に遺産分割を進めるためには、不在者財産管理制度を利用し、不在者財産管理人の選任を経た上、不在者財産管理人に遺産分割協議への参加を求めることになります。

なお、不在者財産管理人は、原則として、不在者の財産の保存行為や、財産の性質を変えない範囲での維持改良に関する権限をもつのみです。したがって、不在者財産管理人を交えて遺産分割協議を行う場合には、遺産分割協議に参加するための権限外行為の許可を取得しておく必要があります。

宮嶋太郎
代表パートナ弁護士
東京大学法学部在学中に司法試験合格。最高裁判所司法研修所にて司法修習(第58期)後、2005年弁護士登録。勤務弁護士を経験後、独立して弁護士法人ポートの前身となる法律事務所を設立。遺産相続・事業承継や企業間紛争の分野で数多くの事件を解決。

私たちが丁寧にわかりやすくお話します。

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