預貯金の使い込み訴訟の流れ
他の相続人による預貯金の使い込み(不正な払戻)を発見した相続人は、この問題を解決する一つの手法として、不正な引出をしたと思われる相続人を被告とし、不当利得返還や損害賠償請求の民事訴訟を提起することが考えられます。
このような種類の訴訟では、審理はどのように進められ、主にどのような主張や反論がなされ、最終的にどのような解決になることが多いのでしょうか。そこで今回は、このような預貯金使いこみ訴訟における手続きの一般的な流れを弁護士が解説します(なお、本記事は被相続人の生前に不正な出金がなされたケースを想定しています)。
原告が訴訟当初にする主張・立証
民事訴訟は、原告が裁判所に訴状を提出することから始まります。訴状には、主に、
- 被告が被相続人名義の預貯金口座から無断で出金を行い、被相続人に不当利得返還請求権または損害賠償請求権が発生したこと、
- 原告がこれを相続したこと
についての具体的事実関係を記載します。なお、問題とする出金については、預貯金の口座と出金日時や金額を一覧にするなどして特定をする必要があります。
また、訴状と併せて、原告の主張を裏付ける証拠を提出します。提出する証拠としては、被相続人の預貯金口座の取引履歴や、戸籍謄本のほか、被相続人の健康状態などを示す医療関係記録などが一般的ですが、そのほかにも事案の特性に合わせて必要な証拠を提出することになります。
被告による反論パターン
原告側の主張に対し、被告側からは答弁書や準備書面が提出され、訴状への反論がなされます。その内容は様々ですが、反論のパターンとしては、以下のようなものが代表的です。
パターン1出金者は被相続人
そもそも、被告は被相続人の預貯金の管理を行っていない。被相続人の預貯金を引き出したのは被告自身ではなく、被相続人本人である。
パターン2被相続人のために費消
被相続人の預貯金を引き出したのは被告であるが、引出金は被相続人の生活費や医療費などに充てており、被相続人本人のために使用したものである。
パターン3被相続人による承諾・贈与
被相続人の預貯金を引き出したのは被告であり、その使途も被告のためのものであるが、被相続人の承諾があった。被相続人から贈与を受けた。
原告による再反論
このような被告の反論に対し、原告側は、必要に応じて再反論を行うことになります。以下では、各反論パターンごとに、よくある再反論の内容をみておきましょう。
出金者は被相続人であるとの反論に対する再反論
第1に、預貯金を引き出したのは自分ではなく被相続人本人であるとの反論(パターン1)に対しては、例えば、「取引履歴に記載された引出場所が被告の自宅の近くATMであること」や、「医療記録に記載された被相続人の身体・認知状態からして、被相続人本人が引き出し得なかったこと」などの主張がよくあります。
被相続人のために費消との反論に対する再反論
第2に、被相続人の生活費や介護費用等に充てたとの反論(パターン2)に対しては、「引出金の金額が被相続人の生活状況からすると多額であること」や、「被相続人は介護施設に入居していたが、施設費用は別に預金から引き落とされていたこと」などの再反論があり得ます。また、例えば被相続人が預貯金を管理していた時期の1ヶ月の引出金額と、被告が被相続人名義預貯金を管理し始めた後の1ヶ月の引出金額を比較し、引出金全額が被相続人の生活費として使われたとはいえないことを主張・立証するという手法もあります。
被相続人から贈与してもらったとの反論に対する再反論
第3に、引出金は被相続人から贈与してもらったものであるとの反論(パターン3)に対しては、「被告が贈与されたという金額や回数が多く贈与として不自然であること」や、「被相続人と相続人の関係が良好でなかったこと(贈与の動機がないこと)」等を再反論として主張することになるでしょう。
訴訟の終了の仕方
原告と被告の間でおおむね以上のような主張の応酬がされた後、証拠調べとして本人尋問や証人尋問が行われ、和解や判決によって訴訟は終了に向かいます。
和解による終了
和解とは、当事者が互いに譲歩し、紛争の解決について一定の合意をすることをいいます。訴訟上の和解が成立することにより、民事訴訟は終了します。
預金の使い込みに関する訴訟は、親族間の紛争であることから、和解での解決が比較的多い類型です。裁判官も多くの場合、和解による解決を勧めてきます。
なお、和解の協議が行われるタイミングは、多くの場合、双方の主張と書証の提出が概ね尽くされた尋問前の時点か、尋問が終わり裁判所が判決をする前の時期となります。
判決による終了
和解による解決が困難な事例では、原告・被告双方の主張立証をもとに、裁判所が判決を下します。裁判所は、争いのない事実や証拠に照らし認められる事実を認定した上で、その事実関係をもとに被告の不当利得や不法行為が認められるかを判断します。
このため、預貯金の使い込みに関する訴訟では、特定の出金については支払義務が認められる(請求認容)一方で、別の出金については被告の支払義務が否定されるというケースもあります。なお、第1審の判決に不服がある当事者は、上級の裁判所に控訴をすることもできます。
まとめ
以上、預貯金の使い込み訴訟の一般的な流れについて説明しました。上記のとおり、この種の訴訟における被告側の反論はある程度類型化することが可能ですが、実際にどのような反論がされるかは訴訟が開始されないとわかりません。原告側としては、被告の反論内容に応じて柔軟に対応する必要があります。弁護士法人ポートでは、預貯金の使い込みに関する不当利得返還請求訴訟についてのご相談・ご依頼をお受けしております。本記事をお読みになり、さらなる疑問点やご相談がおありの方は、お気軽に当法人の無料法律相談をご利用ください。