遺言書作成の基本

あなたが亡くなったあと、ご自身の遺志を法的に実現する方法として、もっとも簡便かつ有効なのが、遺言(遺言書)の作成です。このページでは、遺言書の作成にかかわる基本的な事項について、弁護士が解説します。

遺言書の種類

遺言書は法律に定められた一定の方式にしたがって作成する必要があります。民法では、遺言の作成方法について、いくつかの種類を定めていますが、大きくわけると「普通方式」と「特別方式」があり、それぞれに3種類または4種類の作成方法が規定されています。

普通方式による遺言

普通方式による遺言の種類としては、次の3種類があります。

  1. 自筆証書遺言
  2. 秘密証書遺言
  3. 公正証書遺言

特別方式による遺言

一方、特別方式による遺言の種類としては、次の4種類があります。

  1. 一般危急時遺言
  2. 難船危急時遺言
  3. 一般隔絶地遺言
  4. 船舶隔絶地遺言

特別方式については普通方式によることが困難であるなど、特別な場面を想定しています。そのため、一般的には普通方式のうちの、自筆証書遺言または公正証書遺言の方式によって遺言書が作成されることがほとんどです。それぞれの具体的な作成方法については別ページで解説します。

遺言書に記載できること

遺言書を作成するとして、遺言書にはどのような事項についての記載をすることができるでしょうか。民法上、遺言を作成する人が、遺言に記載できるとされているのは次のような事項となります。

  1. 相続の法定原則に関する事項
  2. 相続財産の処分に関する事項
  3. 身分に関する事項

相続の法定原則に関する事項

法定相続人や法定相続分の規定を初めとした、相続の法定原則を遺言者の意思で修正することができます。具体的には、推定相続人の廃除、相続分の指定、遺産分割方法の指定、特別受益の持戻し免除、遺産分割の禁止、相続人間の担保責任についての指定などがあります。

相続財産の処分に関する事項

相続財産の処分に関する記載事項としては、包括遺贈や特定遺贈、遺言執行者の指定、遺言執行者の復任権の付与などがあります。民法に規定はありませんが、信託法では遺言による信託の設定が可能とされ、保険法では死亡保険金の受取人指定もできるとされています。

身分に関する事項

身分に関する記載事項としては、子の遺言による認知、未成年後見人や未成年後見監督人の指定があります。

もう一歩:法定の遺言事項以外の記載の効力

実際の遺言書には、「これからも、家族円満にやっていくこと」「毎年1回は家族揃って墓参りをしてほしい」などといった法定の遺言事項以外の記載がなされることがあります。こうした記載については、記載してはいけないということではありませんが、残された遺族への訓示的なものにとどまり、法的な意味は認められないのが原則です。もっとも、「親の面倒をみる代わりに、不動産を遺贈する」など負担付遺贈における受遺者の義務と解釈される場合には、一定の法的意味があるということになります。

遺言の撤回と無効

遺言者が遺言書を作成したとしても、次のような事情がある場合には、その遺言には効力が認められません。

方式違背

遺言書の作成は、法律の定める厳格な方式にしたがって行う必要があり、その方式に違反した遺言書は無効と判断されます。例えば、自筆証書遺言について、パソコン・ワープロで作成した、押印や日付の記載がない、連名で遺言を作成した(共同遺言の禁止)などが典型例です。

遺言能力の欠如

遺言能力とは、遺言をする際、遺言の内容とその結果生ずる法律効果を理解し、判断することのできる意思能力のことをいいます。遺言能力を欠く状態で作成された遺言は無効となります。遺言能力の有無は、①遺言時における遺言者の精神上の障害の存否、内容及び程度や、②遺言内容それ自体の単純性・複雑性、③遺言の動機や理由、遺言に至る経緯などの様々の要素を総合的に判断して決定されます。ただし、15歳未満の者には一律に遺言能力がないとされています。

共同遺言

共同遺言とは、2人以上の者が、同一の遺言書で遺言を行うことをいいます。法律は、共同遺言を禁止していますので、共同遺言をしても無効となります。法律が共同遺言を禁止した主たる理由は、遺言は専ら自己の意思によって行われるべきですが、共同遺言では各自の遺言意思が事実上制約されてしまう可能性があるからです。

遺言の撤回

遺言は自由に撤回することができ、撤回された遺言の効力は失われます。遺言者が従前の遺言の全部または一部を撤回する趣旨の遺言書を新たに作成した場合のほか、前の遺言と抵触する内容の遺言書(特定の不動産の受遺者を変更するなど)の作成や生前処分がなされたた場合にも、抵触部分が撤回されたものとみなされます。

なお、遺言者が遺言書を故意に破棄しても撤回とみなされますが、公正証書遺言の場合には原本が公証役場に保管されますので、手元の正本や謄本を破棄しても撤回にならない点には注意が必要です。

まとめ

遺言書の作成に関わる基本的知識についてまとめてみました。せっかく遺言書を作成しても、これが無効とされてしまったのでは元も子もありません。遺言の効力の有無は、遺言者の死亡後に判断されることになりますので、遺言を作成する際には、これが無効とされることのないよう、専門家に相談しながら作成することをおすすめします。

宮嶋太郎
代表パートナ弁護士
東京大学法学部在学中に司法試験合格。最高裁判所司法研修所にて司法修習(第58期)後、2005年弁護士登録。勤務弁護士を経験後、独立して弁護士法人ポートの前身となる法律事務所を設立。遺産相続・事業承継や企業間紛争の分野で数多くの事件を解決。

私たちが丁寧にわかりやすくお話します。

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