遺言に基づく登記

遺言に基づいて不動産の登記名義を被相続人(遺言者)から承継者に移すためには、法務局(登記所)に対し、所有権の移転登記を申請する必要があります。いわゆる名義変更と呼ばれる手続きです。このページでは、遺言に基づく不動産の所有権移転登記をする場合の基本知識を弁護士が解説します。

遺言に基づく登記申請の必要書類(例)

遺言に基づく登記を申請する場合には、その登記原因が相続となるか遺贈となるか等によって、必要書類に違いがでてきます。このため、ご自身で登記手続きを行おうとする方は、必要書類については事前に法務局に相談・確認なさることをおすすめします。

例えば、被相続人が「甲土地を相続人Aに相続させる」という遺言をのこして亡くなった場合の登記原因は「相続」となり、相続人Aは甲土地について次のような必要書類を集めて登記申請をすることになります。

  1. 遺言書
  2. 登記対象不動産の登記事項証明書
  3. 登記対象不動産の固定資産税評価証明書
  4. 遺言者の住民票の除票
  5. 遺言者の戸籍全部事項証明書(戸籍謄本)
  6. 不動産を取得する相続人の住民票
  7. 不動産を取得する相続人の戸籍全部事項証明書(戸籍謄本)

なお、司法書士などの専門家に名義変更手続きの代理を依頼する場合には、遺言書以外の書類については専門家の側で取得を代行してくれることもあります。

登記申請時に提出する遺言書について

遺言に基づく登記申請をする場合、遺言の内容を法務局に確認させるため、法務局に遺言書を提出する必要があります。

ところで、このとき提出する遺言が自筆証書遺言や秘密証書遺言である場合には、必ず、家庭裁判所の検認手続きを経た遺言書を提出するようにしてください。検認手続きを経ていない遺言書を添付書類として提出しても、登記申請が却下されてしまいますので注意しましょう。

遺言書の検認手続きは、遺言書の客観的な状況を確認するための手続きです。遺言書の保管者や遺言書を発見した相続人が、遺言者の死後、家庭裁判所に申し立てることによって実施してもらうことができます。

但し、公正証書遺言については、作成に公証人が関与するということもあり、そもそも検認手続きが不要とされていますので、公正証書遺言の正本をそのまま提出すれば足ります。。

遺言に基づく登記申請は誰が行う?

登記申請に必要な書類が揃った場合、誰が法務局に登記申請をするのでしょうか。いくつか場合分けをして検討してみましょう。

特定の不動産を特定の相続人に相続させる旨の遺言書がある場合

この場合、不動産を取得する相続人は、当該不動産について「相続」を原因とする所有権移転登記を、単独で申請することができます

所有権移転の登記においては、登記によって権利を取得する側と権利を失う側の双方が共同で登記申請をすることが原則とされています。しかし、相続登記については、相続人の単独申請が認められています。これは、遺言執行者がいるかどうかに関係ありません。

遺贈を原因とする所有権移転登記

遺贈を原因とする所有権移転登記がなされる場合には、不動産登記の原則に戻って共同申請となります。遺言執行者の有無によって登記義務者が異なります。

遺言執行者がいないとき

遺言執行者がいないときは、遺言者の相続人全員が登記義務者となります。したがって、遺贈により所有権を取得する者(受遺者といいます)と、遺言者の相続人全員が共同して登記申請をする必要があります。

遺言執行者がいるとき

遺言執行者がいる場合には、遺言執行者が登記義務者となります。したがって、受遺者と遺言執行者が共同して登記申請をすることになります。

遺言に基づく登記にかかる費用

遺言に基づく登記を行う場合には、主につぎのような費用の発生が見込まれます。

登録免許税

遺言に基づく登記を行う場合には、その登記原因によって、登録免許税が変動することには注意が必要です。具体的には、以下のとおりとなります。

相続を登記原因とする場合

不動産の固定資産評価額の0,4%相当額が、相続を原因とする所有権移転登記の登録免許税となります。例えば、5000万円の評価額のついた不動産であれば、登録免許税は20万円ということになります。

遺贈を登記原因とする場合

不動産の固定資産評価額の2%相当額が、遺贈を原因とする所有権移転登記の登録免許税となります。上記の不動産でいけば、100万円の登録免許税が必要となります。但し、相続人に対する遺贈については、例外的に、0.4%相当額で足りるとされています。

必要書類の取得経費

前述のような登記申請に必要な資料(戸籍謄本や住民票など)を取得する際、市役所等で資料の発行手数料が必要となります。概ね、各数百円で取得することができます。

司法書士手数料

遺言に基づく登記申請を司法書士に委任して行う場合、報酬として手数料を支払う必要があります。司法書士事務所ごとに報酬基準が異なるため、具体的には事前の確認をしていただく必要がありますが、一般的な規模の自宅土地建物だけであれば、10万円前後で済むケースが多いようです。

まとめ 

以上、遺言に基づく登記の基本知識について解説してきました。遺言に基づく登記については、同じ不動産を同じ人物に移転する事例であっても、どのような文言が遺言に記載されているかによって、登記申請の当事者や、登記申請に必要な書類、登記費用が異なることがあります。自ら登記申請を行おうという方はもちろん、これから遺言を作成しようという場合にも、本記事にご紹介した基礎知識がお役に立てば幸いです。

弁護士法人ポートでは、遺言に基づく登記に関しましても、ご相談・ご依頼をお受けしております。また、司法書士等の専門家をご紹介することも可能です(但し、当事務所へのご依頼がある方限定)。本記事をお読みになりご不明点などがある方は、ぜひ当事務所の遺産相続無料法律相談をご利用ください。

宮嶋太郎
代表パートナ弁護士
東京大学法学部在学中に司法試験合格。最高裁判所司法研修所にて司法修習(第58期)後、2005年弁護士登録。勤務弁護士を経験後、独立して弁護士法人ポートの前身となる法律事務所を設立。遺産相続・事業承継や企業間紛争の分野で数多くの事件を解決。

私たちが丁寧にわかりやすくお話します。

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