遺留分権利者からの価格弁償金請求

父(A)が先日亡くなりました。父の相続人は、私(X)と後妻のYのみです。父は唯一の遺産である自宅マンションを後妻Yに相続させるとの公正証書遺言を残しました。そこで、私がYに対し内容証明郵便で遺留分減殺請求を行ったところ、Yは私に対し価額弁償の意思表示を行いました。ところが、その後、Yは資金が用意できないと言って価額弁償金を支払う様子がありません。私はどのような請求をすることができるでしょうか。

価格弁償金請求権

価額弁償の意思表示

遺留分権利者から受遺者や受贈者(以下、単に「受遺者」といいます。)に対し遺留分減殺請求がされると、遺留分の限度で遺贈や生前贈与の効力が否定され、目的物の返還義務(不動産等については遺留分権利者と受遺者との間で共有となり共有持分の登記義務)が発生します。

他方、この遺留分減殺請求に対し、受遺者は価額弁償の意思表示をすることができます。受遺者が価額弁償の意思表示をした上で、遺留分権利者に対し、「価額弁償金の現実の履行」または「履行の提供」をすれば、受遺者は遺留分権利者に対する目的物の返還や登記義務を免れることができます。

参考:遺留分減殺請求に対する価額弁償

なお、受遺者が価額弁償の意思表示をしていない場合、遺留分権利者の側から受遺者に対して価額弁償請求をすることはできません

価額弁償の意思表示後に遺留分権利者がとり得る手段

これに対して、受遺者が価額弁償の意思表示をしたものの、現実の履行や履行の提供がなされない(つまり、受遺者が価額弁償金を支払おうとしない)場合はどうでしょうか。

この場合、遺留分権利者は、受遺者に対し、原則どおり目的物の返還請求をすることも可能ですが、自ら価額弁償金の請求を選択し、金銭請求をすることも可能であるとされています。

もっとも、遺留分権者が価額弁償請求権または目的物返還請求権のいずれを行使するかの選択にあたっては、次のようなことに注意しておかなければいけません。

遺留分権利者が価額弁償請求権の行使をする場合の注意点

あと戻りはできない

遺留分権利者が、価格弁償の意思表示を受けた後、一度価額弁償を請求すると、その後翻って、目的物の返還請求権を再度行使することはできません。

この点、最高裁第1小法廷平成20年1月24日判決は、遺留分権利者が受遺者に対して価額弁償を請求する権利を行使する旨の意思表示をした場合、当該遺留分権利者は、遺留分減殺によって取得した目的物の所有権及び所有権に基づく現物返還請求権をさかのぼって失うとしています。

このように、遺留分権利者は、価額弁償の権利を行使する意思表示をしてしまうと、その後目的物の所有権を取得する必要性が生じたとしても、受遺者に対して目的物の返還請求(あと戻り)をすることはできなくなります。

遺留分権利者が無資力の危険性を負う

遺留分権利者は価額弁償請求権を行使することによって受遺者に対し金銭債権を取得するにすぎません。したがって、受遺者が無資力の場合は、価額弁償金を現実に回収できない危険性が生じます。しかも、ひとたび価額弁償金請求権を行使する旨の意思表示をした場合、その後の現物返還請求が不可能となることは上記のとおりです。

このように、遺留分権利者が現物返還請求権を行使した場合は受遺者が無資力の状態であっても目的物の所有権を取得できるのに対し、遺留分権利者が価額弁償請求権を選択した場合は事実上何も得られなくなる危険があります。

したがって、遺留分権利者は、受遺者の無資力の危険性を考慮して、価額弁償請求権を行使しなければなりません。

相談例のケースでは

以上のように、受遺者の資力状態によっては遺留分権利者が価額弁償請求権を行使するか、目的物返還請求権を行使するかによって結果が大きく異なることがあります。

相談例の場合も、Yさんが価額弁償金を用意できないと述べていることからすると、Xさんが価額弁償の権利を行使してしまうとその回収が困難になる可能性があります。

したがって、XさんはYさんの支払能力に注意しつつ、価額弁償の権利を行使するか、現物返還請求権を行使するかを慎重に選択すべきことになります。

まとめ

以上、遺留分権利者が受遺者に対し価額弁償請求権を行使する場合の注意点について解説しました。遺留分権利者は価額弁償の権利を行使する場合の注意点を考慮しないと、大きな不利益を被る危険性があるので注意が必要です。

弁護士法人ポート法律事務所では遺留分減殺請求をした方、遺留分減殺請求を受けた方からのご相談ご依頼をお受けしております。本記事をお読みになり、遺留分減殺請求に関する疑問点やご相談がおありの方は、お気軽に当法人の無料法律相談をご利用ください。

(弁護士 吉口直希)

 

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