母の遺産分割調停と父の遺留分減殺請求調停を同時に申し立て、一挙解決を図った事例
- 相談者A氏の母である被相続人甲が死亡。遺産は、複数の不動産のみであった。
- その後約半年で、A氏の父である被相続人乙が死亡。遺産は、複数の不動産と多額の預貯金、有価証券等であった。
- 甲氏は遺言を作成せず死亡したが、乙氏は遺言を作成。A氏の兄弟であるB氏及びC氏に対し、主要な不動産を相続させるとの内容であった。
- A氏としては、複数の相続が連続しており法律関係が複雑となることなどから、公平な遺産の分配を希望して当事務所への依頼となった。
弁護士による解決
本事案のポイント
本事案は、母の相続(一次相続)が発生したが、遺産分割協議未了のまま父の相続(二次相続)が発生したという、いわゆる数次相続の事案であった。このような場合、先に死亡した母の遺産に対して父が有していた相続分が、父の遺言によってどの相続人に帰属することになるかを整理し、相談者に理解していただくことが重要となる。
また、本件は、父母の遺産が多数の不動産を含むものであったことや、遺言の解釈にも議論の余地があったこと、さらには多額の使途不明金の存在も窺われたことなどから、個別の争点を順次争うことによる事件の長期化が予想された。そこで、いかに依頼者A氏の利益を図りつつ、効率的に事案の解決を図るかということもポイントとなった。
- 父母の連続した相続で発生する法律関係を依頼者に正しく理解いただくこと
- 多数の争点を抱え複雑化しやすい事案を、依頼者の利益を守りつつ、迅速に解決すること
解決に至る経過
担当弁護士は、受任後、A氏の父母の遺産や遺言の内容について独自の調査・検討を行った。その結果、母の相続については遺産分割の問題となるが、父の相続については、父の遺言により父が母の相続財産について有していた相続分がB氏らに帰属することになることから、A氏の遺留分が侵害され遺留分減殺の問題となることが確認された。そこで、担当弁護士は、父の相続に関する遺留分侵害額が、積み残された相手方らとの争点(使途不明金や不動産評価)の帰結に応じて、どの程度変動し得るかを計算し、これをA氏に丁寧に説明して理解をいただいた。
その上で、本件については母の遺産分割調停と、父の相続に関する遺留分減殺請求に関する調停を家庭裁判所に同時に申立て、二つの調停を同じ期日に進行し、相手方らとの協議の中で父母の相続全体の一挙解決を図る戦略を立てた(仮に裁判所の判断を求めるということになれば、遺産分割については審判手続き、遺留分については訴訟手続に拠らざるを得ず、紛争全体の解決が遠ざかる恐れがあることを考慮した。)。
調停手続では、積み残された争点について双方が資料の提出を行い主張が交わされたものの、裁判を経ずに紛争の全体の解決を図るという点で当事者の利害が一致し、最終的には、A氏が不動産の一部に加え、相手方らより解決金の支払いを受ける旨のー合意に至ることができた。