成年被後見人の死亡と後見人の義務

私は、父の成年後見人に選任され、成年後見業務を行ってきましたが、この度父が亡くなりました。これから、弟との間で遺産分割を行うことになりますが、成年後見人として何かしておくべきことはありますでしょうか。

成年被後見人死亡後の義務

成年被後見人の死亡により後見自体は終了する

成年被後見人が死亡した場合、後見自体が終了し、これに伴って後見人の代理権も消滅します。

しかし、後見自体が終了したからといって、成年後見人は、直ちに一切の義務から解放されるわけではありません。 ここでは、成年被後見人死亡後における、成年後見人の代表的な業務をご紹介します。

被後見人死亡後の成年後見人の業務

死亡届の提出

成年後見人は、死亡した成年被後見人について、死亡届を提出します。提出先は、本籍地・死亡地・住所地のいずれかの市区町村の役所窓口です。

戸籍法第八十七条2項

  • 2  死亡の届出は、同居の親族以外の親族、後見人、保佐人、補助人及び任意後見人も、これをすることができる。

なお、死亡届の提出は同居の親族等が行ってもかまいません。

家庭裁判所への報告・登記の申請

成年後見人は、成年被後見人が死亡した事実を家庭裁判所に報告します。また、成年後見開始の審判があるとその旨の登記がなされていますので、法務局に対し、成年後見終了の登記を申請します。

参考:成年後見終了登記申請の方法(外部サイト)

管理計算義務

成年後見人は、成年被後見人の死亡から2か月以内に管理の計算をし、その結果を家庭裁判所に報告しなければなりません。

民法第八百七十条(後見の計算)

  • 後見人の任務が終了したときは、後見人又はその相続人は、二箇月以内にその管理の計算(以下「後見の計算」という。)をしなければならない。ただし、この期間は、家庭裁判所において伸長することができる。

管理の計算とは、具体的には、後見人在職中の収入及び支出を明確にした管理計算書と、任務終了時の残余財産額を確定させた財産目録を作成することをいいます。

相続人への財産引渡義務

成年後見人は、成年被後見人の死亡後、成年被後見人の財産を承継した相続人に対して、速やかに財産を引き渡す必要があります。

なお、相続人が複数いる場合には、相続人全員に対して財産を引き渡す必要があります。そのため、仮に、特定の者を相続人の代表者とした上で、その者に全財産を引き渡す場合には、その者を相続人の代表者として全財産を引き渡すことについて、予め他の相続人全員から同意書を取得しておくべきでしょう

応急処分義務

成年被後見人の死亡により後見が終了しても、「急迫の事情がある場合」には、成年後見人は、遺体の引き取りや葬儀の手続き等の死後の事務をしなければならない場合があります。これを応急処分義務といいます。

いかなる場合に、「急迫の事情がある場合」に該当するかにつきましては、形式的な基準があるわけではありません。 そのため、個別・具体的な状況に鑑みて、判断せざるを得ないのが現状です。

成年被後見人死亡後の被相続人名義の預貯金の引き出し等

成年被後見人が死亡した後、葬儀費用などに充当するため、成年後見人に対し他の親族から成年被後見人名義の預貯金の引き出しを求められることがあります。

しかし、成年被後見人の死亡により、成年後見人の権限は消滅しているわけですから、原則として、そのような要請には応じるべきでないと考えられます。

もっとも、具体的な事案によっては、成年後見人の負っている応急処分義務の一内容として、かような引き出しが認められるのではないかという見解もあり、議論が錯綜しています。こうした問題に直面した場合には、トラブル回避という観点からも、ぜひ遺産相続問題に詳しい弁護士等の専門家に相談をしておくべきでしょう。

私たちが丁寧にわかりやすくお話します。

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