遺産分割審判において、相手方からなされた寄与分の主張を排斥した事例
- 被相続人が死亡。相続人は、相談者A氏のほか、相手方B氏及びC氏の3名。
- A氏及びC氏は相続人の子、B氏は被相続人の妻である。
- 被相続人は生前、個人事業を営んでおり、自宅兼店舗となっている不動産のほか、預貯金を遺産として有していた。
- A氏は、相手方らとの間で公平な遺産の分配を行いたいものの、相手方らとの折り合いが悪く協議の難航が見込まれるとのことで、当事務所への依頼となった。
弁護士による解決
遺産分割審判に至る経過
担当弁護士は、A氏と相手方らとの従前の関係性に鑑み、裁判所外での交渉による解決は難しいと判断し、遺産分割調停手続を申し立てた。すると、相手方らは、調停段階から寄与分の主張を提出。次の事情から、特別寄与が認められると主張した。
- 1)相手方らは、被相続人の事業を無報酬で手伝ってきた
- 2)相手方らは、被相続人の晩年、被相続人の介護を行ってきた
この主張が認められると、A氏は法定相続分(4分の1)の割合での遺産取得をすることができず、寄与分を加味したB氏及びC氏の具体的相続分が増加することになる。
参考:寄与分制度の概要
しかし、A氏によれば、相手方らは無償で家業に従事していたわけではなく報酬を得ていたはずであるし、介護に専従していたわけではないとのことであった。そこで、担当弁護士は、相手方らの寄与分に関する主張を全面的に争うこととしたが、調停段階では議論が平行線であったため、遺産分割(及び寄与分を定める処分)の審判手続に移行し裁判所の判断を仰ぐこととなった。
- 審判手続において相手方が提出した寄与分の主張を排斥できるか
的確な指摘で相手方の寄与分主張を排斥
寄与分に関する主張はいくつかの類型に分類されるが、今回の相手方の主張は、いわゆる「家業従事型」及び「療養看護型」の主張であった。
「家業従事型」の寄与分主張については、相手方が無報酬ないしそれに近いかたちで家業に従事していたかが重要となる。このため、担当弁護士が調停手続中に相手方が開示した被相続人の確定申告書を精査したところ、相手方らに対し、低額とは言えない専従者給与が支払われていたとの記録を発見した。そこで、担当弁護士は、審判手続においてこの点を指摘した。
次に「療養看護型」の寄与分主張については、認知症を患った被相続人につき療養看護の必要があることは認められるものの、相手方らの療養看護が、夫婦ないし親子関係から通常期待される程度を超えるものである場合に特別の寄与が認められることになる。そこで、担当弁護士は、被相続人が公的な介護サービスを適宜利用していたことや、相手方らは被相続人が経営していた事業深く関与しており介護に多くの時間を割くことができなかったはずであることを指摘し、特別の寄与との評価には値しないことを主張した。
その結果、審判官は、担当弁護士の主張を重視し、「家業従事型」及び「療養看護型」の寄与分はいずれも認められないとの判断となり、A氏は、無事、法定相続分に沿った遺産分割の結果を勝ち取ることができた。