寄与分制度の概要
個人事業で成功した被相続人Aは1億円の遺産を残して亡くなりました。その長男Bは、30年間、ほとんど無給で、父の右腕として家業を手伝ってきた一方、次男Cと長女Dは、早くから実家を出て手伝いもせず、それぞれ好きな仕事について独立しています。
このような場合でも、BはCやDと同じ割合の遺産しか取得できないのでしょうか。このページでは、一部の相続人が被相続人の財産の維持増加に貢献した場合に問題となる、寄与分の制度について弁護士が解説します。
寄与分とは
説例のように、被相続人に対し多大な貢献をした相続人がいた場合でも、常に他の共同相続人と均等の遺産分配しか受けられないというのでは、実質的な不公平が生じます。
そこで民法は、共同相続人の中に、被相続人の財産の維持又は増加について一定の貢献をした相続人がいるときは、その相続人の相続分を増やすという制度を設けました。これを寄与分制度といいます。
民法904条の2 第1項
共同相続人中に、被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から共同相続人の協議で定めたその者の寄与分を控除したものを相続財産とみなし、第九百条から第九百二条までの規定により算定した相続分に寄与分を加えた額をもってその者の相続分とする。
つまり、寄与分制度は、寄与分を相続において考慮することによって相続人間の実質的な公平を図るための制度です。
寄与分が認められる要件
寄与分が認められるためには、①共同相続人による行為であること、②特別な寄与であること、③被相続人の財産や遺産が維持され、又は増加したことが必要となります。以下、簡単に解説していきましょう。
共同相続人による行為
寄与分は、共同相続人についてのみ認められます。つまり、隣近所に住んでいる友人はもちろん、被相続人の親族であっても相続人の資格がない者(例えば、被相続人に子がいる場合の兄弟姉妹など)に寄与分が認められることはありません。遺産を残す方が、共同相続人以外でお世話になった方に財産を分けたい場合には、生前に遺言書を書くことが必要です。
特別な寄与
被相続人と相続人の身分関係に基づいて通常期待されるような程度の貢献は特別な寄与と評価されません。例えば、妻の家事労働については、一般的に夫婦間の協力扶助の範囲内の行為とされているため、通常は、特別な寄与とは評価されないと考えられています。
この要件を巡っては、相続人のひとりが被相続人の療養看護を長期間に渡って全て行っていたという事案で、それが「特別の寄与」といえるかという形で問題になることがよくあります。
財産の維持増加
特別な寄与によって、相続財産が維持され又は増加したことが必要となりますので、たとえ療養中の被相続人に付き添い、励まし続けたとしても、このような行為は寄与分の対象外となります。
寄与分を確定する手続き
寄与分は、原則としては、相続人全員の話し合いによって決めます。次男Cと長女Dが長男Bの貢献を理解して、Aの具体的な相続分を増やすことに同意する限り、それを前提に遺産分割を行えば足ります。
しかし、お互いが譲らず話し合いがまとまらないときには、家庭裁判所に対し調停や審判を申立て、寄与分の有無やその額を決めてもらうことになります。
もっとも、寄与分の審判は、遺産分割の前提問題ですから、遺産分割の審判を申し立てる必要があります(なお、特別受益の場合とは異なり、寄与分は遺留分算定の場面では考慮されないとされていますので、遺留分減殺請求訴訟などでは問題となりません。)。
寄与分を前提とした相続分の計算
寄与分を踏まえた相続分の計算方法
寄与者の相続分は、①被相続人の遺産の価額から寄与分を控除したものを相続財産とみなし(みなし相続財産といいます)、②これに相続分率を乗じて算定した額を本来の相続分とし、③この本来の相続分に寄与分を加えたものが寄与者の相続分となります。
具体例による計算
では、具体例を見てみましょう。説例のような長男Bの貢献は、父の財産の増加に1000万円の寄与があったと評価されたと仮定します。この場合、まず、寄与者である長男Bの具体的相続分の計算方法は以下のとおりとなります。
寄与者Bの具体的相続分
=(1億円-1000万円)× 1/3 +1000万円
=4000万円
次に、残りのC・Dの相続分の計算方法は以下のとおりとなります。
C及びDの具体的相続分
=(1億円-1000万円)× 1/3
=3000万円
寄与分については弁護士にご相談を
寄与分は、遺産分割調停に際し非常に問題となりやすく、注意が必要な論点です。例えば、特別の寄与があったにもかかわらず、その主張をせずしないまま法定相続分に従った遺産分割協議書を作成してしまった場合には、あなたが結果的に損をするということもあり得ます。
逆に、寄与分に関する詳しい要件を知らないために、法的には寄与分が認められないにもかかわらず、わずかな貢献を誇張して主張する他の共同相続人に対抗できないということもあるかもしれません。
このような事態を防止するためにも、遺産分割協議や調停で寄与分について気になることがある方は、一度、弁護士などの相続専門家にご相談ください。