賃貸不動産からの家賃収入と遺産分割

遺産分割前・後の家賃収入どう分ける?

父(A)が先日亡くなり、相続人は兄(B)、私(C)、妹(D)の3名です。遺言はありません。父の遺産は、金融資産約3億円のほか、都内にある貸しビル(時価3億円)、自宅の土地建物(時価3億円)です。これまで税理士のアドバイスを受けながら遺産分割の話合いを行い、1年かけてようやく「兄が賃貸不動産の全てを取得し、私が金融資産を、妹が自宅不動産を取得する」という方向で概ね合意ができそうです。しかし、ここにきて、父の死後1年間で発生した賃貸不動産からの家賃収入約3000万円の取り扱いが問題となっています。現在はこれを兄が預かっているのですが、兄は「賃貸不動産を得るのは自分だから、これまでの賃料も、当然、全部俺が貰う」と言っています。本当に清算はしてもらえないのでしょうか。

遺産分割成立前の家賃収入

遺産分割成立前の相続不動産の状態

被相続人の死亡により、相続財産を構成する不動産は、遺産分割成立までの間、法定相続分の割合に沿った共同相続人の共有状態となります(遺産共有状態)。相談例のケースでいえば、貸しビルはB・C・Dが各3分の1ずつの割合で共有することになります。

そして、この遺産共有の性質は、遺産分割手続によらなければ分割できないなどの点を除けば、基本的には民法249条以下に規定される共有と同じ性質をもつものとされています。

共有不動産から発生した賃料債権の帰属

不動産の共有者は、その持分の割合に応じて、共有不動産を使用収益する権利を有しています(民法249条)。したがって、共有状態にある相続不動産を貸し出して得た賃料債権は、共同相続人がその持分割合に応じて取得することなります。

また、かかる賃料債権は金銭債権であり、不動産と異なり可分であるといえます。このため、共同相続人は賃料債権のうち自己の取得部分を、各自、単独分割債権として取得することになります。

相談例のケースでは、B・C・Dが、各1000万円ずつ、相続開始後の賃料債権を取得したということになりそうです。

最高裁第1小法廷平成17年9月18日判決

この点、最高裁第1小法廷平成17年9月18日判決も、相続開始後遺産分割成立までの間に相続不動産から生じた賃料の取り扱いが争点となった事案で、次のように述べ、上記と同様の趣旨のことを判示しています。

遺産は、相続人が数人あるときは、相続>開始から遺産分割までの間、共同相続人の共有に属するものであるから、この間に遺産である賃貸不動産を使用管理した結果生ずる金銭債権たる賃料債権は、遺産とは別個の財産というべきであって、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得するものと解するのが相当である。

遺産分割成立後の家賃収入

収益不動産の取得者の収入となる

遺産分割により収益不動産の取得者が決まれば、遺産分割成立後の家賃収入は当該取得者が全て取得することになります。遺産分割により共有関係が解消される以上、これは当然のことでしょう。相談例のケースでも、Bさんが賃貸不動産を取得するならば、遺産分割成立以後の賃料収入について、CさんやDさんが権利を主張することはできません。

遺言で取得者が決められている場合は?

遺言により不動産の取得者が特定の者に指定されている場合には、相続開始と同時に当該取得者の単独所有となるため、遺産共有状態にはなりません。この場合は、相続開始直後より、賃料収入は全て当該不動産の取得者に帰属します。

遡及効との関係

遺産分割の効力に関して、民法には次のような条文があります。

第九百九条 (遺産の分割の効力)

  • 遺産の分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし、第三者の権利を害することはできない。

遺産分割のこのような効力を「遡及効」といいますが、この条文は遺産分割前の賃料の取得者に影響するでしょうか。つまり、収益不動産を取得した相続人が、相続開始の時にさかのぼってその所有者であったということになるのであれば、相続開始から遺産分割成立までの賃料収入も、結局は収益不動産を取得する 人のものになるのではないかという問題です。

もしそうならば、相談例のケースのCさんやDさんは、Bさんに対して遺産分割前の賃料の分配を受けても、これを後から返還しなければならなくなってしまいます。

しかし、結論からいえば、そのような心配は不要です。前記の最高裁判例でも、この点について以下のように述べ、遺産分割の遡及効が分割成立前の賃料債権の帰属に及ばないことを明示しています。

遺産分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずるものであるが、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得した上記賃料債権の帰属は、後にされた遺産分割の影響を受けないものというべきである

兄に対する清算金の請求方法

以上の結果、相談例のケースでは、CさんとDさんは、Bさんが預かっている3000万円のうち、各1000万円の分配を請求できることになりそうです。では、この場合、どのような形で清算を請求すればよいでしょうか。

遺産分割の対象ではない

遺産分割手続の中で分配を請求する方法はどうでしょうか。この点、相続人全員に異議がない限り、事実上、遺産分割手続における清算処理も可能です。そして、実際に、このような解決を図る方も多くおられます。

しかし、相談例のように一部の相続人の了解を得られない場合、遺産分割調停や遺産分割審判の舞台である家庭裁判所では、この問題を扱うことができません。なぜなら、相続開始後の賃料債権は、遺産である相続不動産の使用の対価として得る金銭(法定果実)であり、法的には、「遺産」そのものではないからです。

民事訴訟での請求

このため、相談例のケースのように、清算すべき賃料収入を預かっている相続人が清算を拒むような場合、他の相続人は、清算金請求の民事訴訟を提起してこれを解決するほかありません。

具体的には、拒否している相続人を被告として、不当利得の返還請求として清算金を請求するという方法が通常です。

税務申告について

相続不動産から発生する賃料収入については、その発生時期に応じて税務申告の方法が異なりますので注意が必要です。

被相続人の生前に発生した賃料

まず、被相続人の生前に既に発生していた賃料収入については、生前の被相続人の所得として準確定申告の対象となります。また、相続開始時点で未回収の賃料債権が溜まっている場合には、これが相続税申告の対象となる可能性もあります。

相続開始後の賃料

また、相続開始後遺産分割成立前に発生した賃料については、上記のとおり、各相続人がその相続分に応じて確定的に取得しますので、各相続人が自己の所得として所得税申告を行う必要があります。

まとめ

以上、賃貸不動産からの家賃収入と遺産分割の関係について解説しました。ポイントをまとめると以下のとおりです。

遺産分割前遺産分割後
相続開始後の賃貸収入 各相続人に相続分の割合で帰属 不動産の取得者に帰属
遺産分割前に取得した賃料 遺産分割の影響を受けない
賃貸収入の請求方法 清算金請求訴訟が原則だが当事者の合意で遺産分割協議での清算も可
賃貸収入の税金 準確定申告、相続税申告、所得税の申告 取得者は所得税の申告

収益不動産からの家賃収入を一部の相続人に独り占めされているなど、本記事に関連した事案でお困りのかたは、ぜひ一度、弁護士にご相談ください。

宮嶋太郎
代表パートナ弁護士
東京大学法学部在学中に司法試験合格。最高裁判所司法研修所にて司法修習(第58期)後、2005年弁護士登録。勤務弁護士を経験後、独立して弁護士法人ポートの前身となる法律事務所を設立。遺産相続・事業承継や企業間紛争の分野で数多くの事件を解決。

私たちが丁寧にわかりやすくお話します。

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