相続した借地の譲渡承諾料(名義変更料)要求

私の父が昨年亡くなりました。父の相続人は、私と弟の2名で、父の遺産は、預貯金と借地上の建物のみになります。父の死後、弟との間で遺産分割協議を行い、私が借地上の建物を相続し、弟が預貯金を相続しました。ところが、この度地主から借地権者が変わったことを理由に名義変更料(譲渡承諾料)の支払請求と、譲渡承諾料を支払わなければ土地の賃貸借契約を解除するとの連絡が来ました。私は、地主に対してこれを支払わなければならないのでしょうか。

相続借地の名義変更料

譲渡承諾料とは

まずご相談の事例について解説をする前に、名義変更料(譲渡承諾料)とはどのようなものを言うかを説明します。

借地権を地主に無断で譲渡した場合、その行為は原則として、契約の解除事由になってしまいます(民法612条)。したがって、借地権の譲渡をするためには地主の承諾が必要になります。譲渡承諾料とは、この借地権譲渡にあたり、地主が借地権の譲渡を認める代わりに借地権者が地主に支払う対価になります。なお、この譲渡承諾料の相場ですが、一般的に借地権価格の1割程度と言われています。

相続による借地権の移転は解除理由にならない

それでは、相続によって借地権を取得した場合、地主は、借地権者が変わっていることを理由に賃貸借契約を解除することができるのでしょうか。

この点について、確かに借地権者が被相続人から相続人に変わっているため、一見借地権の譲渡がされているように思えます。しかし、結論を言えば、このケースでは地主は借地権の無断譲渡があったことを理由に土地の賃貸借契約を解除することはできません。

なぜなら、通常の借地権の譲渡は、借地権者から特定の譲受人に対して借地権が譲渡されるのに対し、相続の場合は、相続が発生したことによって相続人は被相続人の地位をそのまま受け継ぐため、借地権の譲渡がされたと言えないからです。したがって、地主は、借地権者が変わったことを理由に土地の賃貸借契約を解除することはできません。

譲渡承諾料の支払い義務もなし

では、賃貸借契約を解除されないとしても、相続によって借地権を取得した場合、地主に対して譲渡承諾料を支払わなければいけないのでしょうか。

この点についても、同様の理由で、相続人は地主に対して譲渡承諾料を支払う必要はありません。前述のとおり、そもそも相続による借地権の移転については民法612条に規定される賃貸人の承諾が不要なわけですから、承諾の対価を支払うべき根拠がないのです。

もっとも、賃貸人である地主さんとの関係では、相続後の地代の支払いなど継続的な関係が続きますので、借地権を相続した相続人は、少なくとも一度は挨拶にいくなど、良好な関係を維持するための配慮をするべきでしょう。

まとめ

以上、借地の相続と地主からの譲渡承諾料請求について解説いたしました。実際の現場でも、借地人が変わるときは名義変更料を要求できると考えている地主さんは多く、相談例のように相続にあたり地主から譲渡承諾料を請求されるケースがありますが、上記解説のとおり、相続人は譲渡承諾料を支払う必要がありません。

借地権の相続の場合、相続人との関係を調整する一方で、地主との関係も調整しなければいけないため遺産分割の際は両方に目を向ける必要があります。本記事をお読みになり、借地権の相続を含む遺産分割のご相談がおありの方は、お気軽に当法人の無料法律相談をご利用ください。

宮嶋太郎
代表パートナ弁護士
東京大学法学部在学中に司法試験合格。最高裁判所司法研修所にて司法修習(第58期)後、2005年弁護士登録。勤務弁護士を経験後、独立して弁護士法人ポートの前身となる法律事務所を設立。遺産相続・事業承継や企業間紛争の分野で数多くの事件を解決。

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