遺産分割で葬儀費用を請求できる? | 葬儀費用の負担者と香典の取り扱い

私の父が先日亡くなりました。相続人は私(X)と弟(Y)です。父の死後、私が喪主として葬儀を行い、葬儀費用は私が全額支払いました。弟も参列しています。父の遺産分割をするにあたり、私が支出した葬儀費用を弟にも半分負担してもらいたいと考えていますが可能でしょうか。

葬儀費用と相続

葬儀費用とは

遺産分割の現場では、葬儀関連費用の取り扱いはトラブルになりやすいポイントのひとつです。葬儀に関連する費用としては、例えば次のようなものがあります。これらは全て「葬儀費用」なのでしょうか。

  1. 遺体の運搬・火葬・埋葬費用
  2. お通夜・告別式の開催費用
  3. 読経料や戒名料などの寺院費用
  4. 香典返しの費用
  5. 初七日・49日法要などの法要費
  6. 仏壇・墓地・墓石の購入費用

なお、実のところ、葬儀費用についての法律上の定義というものはありません。このため、葬儀費用の分担について相続人間で話合いをする場合には、単に「葬儀費用」というだけでなく、上記のような費用のうち、具体的にどこまでを前提とした協議なのかを明確にしておくことが重要です。

葬儀費用の負担者

相続債務として分担を求められるか

葬儀費用が相続債務であれば、その債務は原則として法定相続分による分割承継となるため、これを立替払いした相続人は他の相続人に対して求償が可能となるでしょう。

しかし、葬儀費用は、相続が開始した後の費用であるため、理論的に、相続債務とはなり得ない費用です。したがって、「被相続人のための費用だから相続債務として処理すべき」という主張は、法的には誤りということになります。

なお、相続税法上は、相続税の計算において、一定範囲の相続人等が負担した葬式費用を相続財産から差し引くことができるとされています(相続税法13条)。しかし、これは葬式費用が相続債務そのものであること前提としているのではなく、相続債務に準じた取り扱いを認めているに過ぎません。

法的には喪主の負担とするのが一般的

法律上の理論として、葬儀費用は誰の負担となるかを説明しておきましょう。この点については、法律の規定がなく、解釈によってこれを決めることになります。

そして、葬儀費用の負担者については、相続財産から支払うべきとする考えや、慣習や条理に従うべきとする考え方もありますが、喪主が負担するという考えが有力です。例えば、名古屋高裁平成24年3月29日判決は、葬儀費用を「死者の追悼儀式に要する費用」と「埋葬等の行為に要する費用」に分けた上、前者については喪主が、後者は祭祀承継者が負担すべきものと判断しました。これは、葬儀の有無やその規模、費用を決めるのはその葬儀を主宰した喪主であることから、これを負担させるのも喪主にすべきという考え方をとったためです。

この裁判例の考え方にしたがえば、喪主が他の相続人に対して葬儀費用の負担を求めた場合であっても、喪主側の請求は認められないことになります。

相続人間の合意がある場合

上記の法的な帰結にかかわらず、葬儀費用の負担者について相続人間の合意が可能な場合には、その合意内容に沿って負担者や各自の負担額を自由に取り決めることができます

また、こうした合意が成立するときは、葬儀費用の問題を遺産分割協議や遺産分割調停の中に持ち込み、一括して解決することもできます(被相続人の遺産と直接の関係がない葬儀費用については、本来、遺産分割の対象とはなりません。)。

したがって、相談例のXさんとしては、弟のYさんに対し、葬儀費用の内容を説明して、応分の負担を求めてみるとよいでしょう。前記のような法的な理屈は別として、親の葬儀費用を子が分担するというのは社会常識としておかしなことではありませんし、実務上も、一定範囲で分担に応じる相続人は多いものです。

香典の取り扱い

葬儀費用が喪主の負担になるとしても、香典の帰属についてはどのように考えるのでしょうか。この点、葬儀費用の場合と同じく、香典の帰属についても法律上の規定はありません。このため、その結論は解釈にゆだねられており、中には、香典の一部を遺産として分割せよと主張する相続人がいるかもしれません。

しかし、一般的には、香典は葬儀費用に充てることを目的とした喪主に対する贈与であり、遺産とは別個の財産であると考えられています。したがって、特段の事情がない限り、香典を相続人の間で分割する必要ないと考えてよいでしょう。

このため、喪主が全面的に葬儀費用を負担する場合でも、香典を全てその葬儀費用に充てることができることから、実質的な負担額は葬儀費用から香典額を控除した残額ということになります。

トラブルを回避するために

葬儀費用の負担問題を相続人間で上手に解決するために、葬儀費用を立替払いする相続人が気をつけておくべきポイントを説明します。葬儀費用について他の相続人から主に出てくる主張は次の2つです。

葬儀費用が高すぎるから負担したくない

葬儀後に喪主から示された葬儀費用の総額が思った以上であり、負担額が高額になってしまうケースの主張です。特に、相続財産中の預貯金を使っても賄えないような場合には、相続人の固有財産からの持ち出しを意味することになるため、強い抵抗が示されることがあります。例えば、「親父はもっと質素な葬式を望んでいたはずだ。喪主が勝手に派手な葬式を出したのだから、その分の負担はできない。」という具合です。

こうした事例では、他の相続人に対し、葬儀の規模やグレードなどについて事前の相談や確認をしておくことで、事後の費用負担をめぐるトラブルを回避できます。葬儀の準備は時間もなく、精神的な余裕もない中での作業ですが、できる限り他の相続人との打ち合わせをしておくとよいでしょう。

葬儀費用の平均的相場は?

一般的な葬儀費用の相場は、地域差もあるため、一概にどの程度の金額が高いということは言えません。しかし、各種アンケート調査によると、全国的な葬儀費用の平均値は150万円~200万円程度という結果となることが多いようです。

本当にそんなに費用がかかったのか

喪主が立て替えたと説明する葬儀費用が、本当に支出されたのか疑わしいとして、負担を拒否されるケースです。こうしたケースでは、葬儀費用の内訳が不明であったり、それらの裏付けとなる領収証が不足していたりするため、トラブルとなります。

こうした事例では、費用の明細書を作成し、領収証をきちんと保管・整理しておくことでトラブルを回避できるでしょう。もちろん、葬儀費用の中には領収証の確保しにくい支出もあろうかと思いますが、そのような場合は具体的な金額をメモしておくだけでも、何もないよりはマシです。

まとめ

以上、遺産分割における葬儀費用や香典の取り扱いについて解説しました。上にみたように、葬儀費用や香典は、遺産分割においては法律的には付随的な問題ではあるものの、当事者である相続人の立場からすると、感情的な対立が発生しやすい事項であるということができます。葬儀費用・香典トラブルを事前に回避するために、本記事がお役に立てば幸いです。

宮嶋太郎
代表パートナ弁護士
東京大学法学部在学中に司法試験合格。最高裁判所司法研修所にて司法修習(第58期)後、2005年弁護士登録。勤務弁護士を経験後、独立して弁護士法人ポートの前身となる法律事務所を設立。遺産相続・事業承継や企業間紛争の分野で数多くの事件を解決。

私たちが丁寧にわかりやすくお話します。

法律相談のご予約はこちら

  • お問い合わせフォームへ

法律相談のご予約はこちら

  • お問い合わせフォームへ