特別縁故者制度の概要

20年間連れ添った内縁の夫が先日亡くなりました。特に遺言などは見つかっていません。内縁の夫には親族がありませんが、私も法律上の婚姻関係にあったわけではないので法定相続人とはなれないと聞きました。私が遺産を受け取る方法はないのでしょうか。

以上のようなケースでは、特別縁故者制度を活用して相続財産を取得できる可能性があります。以下では、特別縁故者制度の概要について弁護士が解説します。

特別縁故者制度

特別縁故者制度とは、相続人がいない場合に、家庭裁判所が、被相続人と特定の関係があった者に対して、相続財産の一部を分与するという制度です。

被相続人の遺産を相続する相続人がいない場合、相続財産に法人格が付与され、被相続人の債権者に対する弁済等の清算手続きが行われた上、残った相続財産は国庫に帰属するというのが民法の原則です。

しかし、事情によっては、「相続権はないものの、被相続人と深い縁故があった人」に遺産を取得させることが公平であると考えられる場合は少なくありません。そこで、民法は、特別縁故者制度を設け、相続人でない特別縁故者が遺産を取得する余地を残しています。

第九百五十八条の三 第1項(特別縁故者に対する相続財産の分与)

  • 前条の場合において、相当と認めるときは、家庭裁判所は、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故があった者の請求によって、これらの者に、清算後残存すべき相続財産の全部又は一部を与えることができる。

特別縁故者の範囲

被相続人とどのような関係にあった人が、特別縁故者なれるのでしょうか。民法では、特別縁故者となり得る者として、次の3つの類型が規定されています。

被相続人と生計を同じくしていた者

被相続人と同一の生計を営んでいた者です。内縁の妻や夫、被相続人の子の妻、伯父(叔父)・伯母(叔母)などの相続権のない親族などで、被相続人と同一家計によって生活していた方は、特別縁故者とされる余地があります。

被相続人の療養看護に努めた者

被相続人の療養看護に尽力した方は、特別縁故者と認められる可能性があります。認知症となった被相続人を長期にわたり自宅で看護を行ったというような場合はもちろん、被相続人の入院先に多数回かつ頻繁に見舞いに行ったり、着替えを届けるなど身の回りの世話を継続していたというような療養看護の周辺的な行為を行った場合も含まれる余地があります。

その他被相続人と特別の縁故関係があった者

生計同一者や、療養看護者には該当しないものの、これらと同程度に被相続人と密接な関係があったと考えられる者です。この類型で特別縁故者として認められるケースは多様であり、個人のみならず、地方公共団体や学校法人などの法人・団体もその対象となり得るとされています。

特別縁故者による遺産取得の流れ

以下では、あなたが特別縁故者として財産を取得しようとする場合の手続きの概略を解説します。

相続人の調査

特別縁故者制度は、被相続人に相続人のいない場合に適用される制度です。このため、まずは戸籍等の調査により、相続人がいないことを確認します。戸籍の取り寄せや内容確認については、専門家である弁護士等に依頼するとスムーズです。

相続財産管理人の選任

戸籍上相続人の存在が確認できないときは、利害関係人として、家庭裁判所に対し、相続財産を管理するための相続財産管理人の選任を申し立てます。所定の公告手続きを経て、相続財産管理人が選任されます。

清算手続と相続人の捜索

相続財産管理人は、相続人を捜索するとともに、被相続人の債務を支払うなどして相続財産の清算手続きを行います。

財産分与の申立

上記の捜索の結果、相続人が判明しなかった場合、特別縁故者は家庭裁判所に対し、被相続人の財産の分与を請求することができます。この請求に対し、家庭裁判所が相当と認めたときは、特別縁故者は、清算後残った相続財産の全部又は一部を取得することができます。

特別縁故者制度の限界

特別縁故者制度は、相続権や遺言がない場合の救済制度として有効な部分がありますが、他方で、次のような限界もあります。

相続人がいる場合には適用されない

特別縁故者制度は、あくまで相続人がいない場合の例外的な制度であり、相続人がいる場合には適用されません。資産のある方が、相続人がいるが特定の縁故者に相続財産を渡したいという場合には、やはり遺言を作成して、その縁故者に財産を分けられるようにしておくことが重要となります。

家庭裁判所の裁量による分与

特別縁故者に対する財産の分与については、裁判所の裁量によって分与の有無や程度が決定されることになります。このため、特別縁故者が必ず一定の遺産を確保できるという保証はありません。

まとめ

以上、特別縁故者制度の概要について解説してきました。弁護士法人ポートでは、このような特別縁故者による財産分与の問題についてもご相談をお受けしております。ご不明点のある方や、特別縁故者による財産分与請求のご依頼をお考えの方は、どうぞお気軽にお問い合わせ下さい。

宮嶋太郎
代表パートナ弁護士
東京大学法学部在学中に司法試験合格。最高裁判所司法研修所にて司法修習(第58期)後、2005年弁護士登録。勤務弁護士を経験後、独立して弁護士法人ポートの前身となる法律事務所を設立。遺産相続・事業承継や企業間紛争の分野で数多くの事件を解決。

私たちが丁寧にわかりやすくお話します。

法律相談のご予約はこちら

  • お問い合わせフォームへ

法律相談のご予約はこちら

  • お問い合わせフォームへ