特別縁故者制度の概要
20年間連れ添った内縁の夫が先日亡くなりました。急なことでしたので、特に遺言なども用意していなかったようです。内縁の夫には親族がありませんが、私も法律上の婚姻関係にあったわけではないので法定相続人とはなれないと聞きました。私が遺産を受け取る方法はないのでしょうか。
内縁の妻には法定相続権がない
今回の相談者様のケースでは、一般的な相続手続きによって遺産を受け取ることはできません。内縁の妻には、法律上の配偶者と異なり、法定相続権が認められていないためです。
第八百九十条(配偶者の相続権)
- 被相続人の配偶者は、常に相続人となる。この場合において、第八百八十七条又は前条の規定により相続人となるべき者があるときは、その者と同順位とする。
民法では、被相続人に配偶者がいる場合、その配偶者は常に法定相続人となるものとされています。ただし、ここでいう配偶者とは、法律上婚姻届を提出して夫婦となった者を指します。したがって、婚姻届を提出していない内縁関係の場合、たとえ長年にわたって夫婦として生活を共にしていたとしても、内縁の妻には法定相続権は発生しないのです。
しかし、以上のようなケースでは、特別縁故者制度を活用して相続財産を取得できる可能性があります。以下では、特別縁故者制度の概要について弁護士が解説します。
特別縁故者制度とは
特別縁故者制度とは、相続人がいない場合に、家庭裁判所が、被相続人と特定の関係があった者に対して、相続財産の一部を分与するという制度です。
被相続人の遺産を相続する相続人がいない場合、相続財産に法人格が付与され、被相続人の債権者に対する弁済等の清算手続きが行われた上、残った相続財産は国庫に帰属するというのが民法の原則です。
しかし、事情によっては、「相続権はないものの、被相続人と深い縁故があった人」に遺産を取得させることが公平であると考えられる場合は少なくありません。そこで、民法は、特別縁故者制度を設け、相続人でない特別縁故者が遺産を取得する余地を残しています。
第九百五十八条の三 第1項(特別縁故者に対する相続財産の分与)
- 前条の場合において、相当と認めるときは、家庭裁判所は、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故があった者の請求によって、これらの者に、清算後残存すべき相続財産の全部又は一部を与えることができる。
特別縁故者の範囲
被相続人とどのような関係にあった人が、特別縁故者なれるのでしょうか。民法では、特別縁故者となり得る者として、次の3つの類型が規定されています。
被相続人と生計を同じくしていた者
被相続人と同一の生計を営んでいた者です。内縁の妻や夫、被相続人の子の妻、伯父(叔父)・伯母(叔母)などの相続権のない親族などで、被相続人と同一家計によって生活していた方は、特別縁故者とされる余地があります。
被相続人の療養看護に努めた者
被相続人の療養看護に尽力した方は、特別縁故者と認められる可能性があります。認知症となった被相続人を長期にわたり自宅で看護を行ったというような場合はもちろん、被相続人の入院先に多数回かつ頻繁に見舞いに行ったり、着替えを届けるなど身の回りの世話を継続していたというような療養看護の周辺的な行為を行った場合も含まれる余地があります。ただし、家政婦や看護師のように報酬を得て介護に従事していた場合は、特段の事情がない限り特別縁故者には該当しません。
その他被相続人と特別の縁故関係があった者
生計同一者や、療養看護者には該当しないものの、これらと同程度に被相続人と密接な関係があったと考えられる者です。この類型で特別縁故者として認められるケースは多様であり、個人のみならず、地方公共団体や学校法人などの法人・団体もその対象となり得るとされています。
特別縁故者による遺産取得の流れ
以下では、あなたが特別縁故者として財産を取得しようとする場合の手続きの概略を解説します。
相続人の調査
特別縁故者制度は、被相続人に相続人のいない場合に適用される制度です。このため、まずは戸籍等の調査により、相続人がいないことを確認します。戸籍の取り寄せや内容確認については、専門家である弁護士等に依頼するとスムーズです。
相続財産清算人の選任
戸籍上相続人の存在が確認できないときは、利害関係人として、家庭裁判所に対し、相続財産を管理するための相続財産清算人の選任を申し立てます。相続財産清算人が選任されると、その旨及び相続人があるならば一定の期間内にその権利を主張すべき旨の公告がなされます(最低6ヶ月)。
清算手続と相続人の捜索
相続財産清算人は、これと並行して、全ての相続債権者及び受遺者に対し、その請求の申出をすべき旨を公告します(最低2ヶ月)。これにより申し出があった債権者等に対し被相続人の債務を支払うなどして相続財産の清算手続きを行います。
財産分与の申立
上記の捜索の結果、相続人が判明せず、清算後の残余財産がある場合、特別縁故者は家庭裁判所に対し、被相続人の財産の分与を請求することができます。この請求に対し、家庭裁判所が相当と認めたときは、特別縁故者は、清算後残った相続財産の全部又は一部を取得することができます。
手続きにかかる時間はどのくらい?
特別縁故者が財産の分与を受けるためには、上記のように、まず相続財産清算人の選任が必要です。その後、相続債権者・受遺者の確認や相続人の捜索など一定の手続きを経る必要があり、特別縁故者が分与の申立てを行えるようになるまでには、必要な公告期間だけでも最低6ヶ月を要します。特別縁故者に該当する可能性がある方は、早めに専門家に相談することをおすすめします。
特別縁故者制度の限界
特別縁故者制度は、相続権や遺言がない場合の救済制度として有効な部分がありますが、他方で、次のような限界もあります。
相続人がいる場合には適用されない
特別縁故者制度は、あくまで相続人がいない場合の例外的な制度であり、相続人がいる場合には適用されません。資産のある方が、相続人がいるが特定の縁故者に相続財産を渡したいという場合には、やはり遺言を作成して、その縁故者に財産を分けられるようにしておくことが重要となります。
取得できる財産の割合は亡くなった人との関係によって変わる
特別縁故者に分与される財産の割合は、被相続人との関係性や特別縁故者の状況など、様々な事情を考慮して裁判所の裁量により決定されます(分与の相当性が認められる必要があります)。例えば、被相続人と同居し、長年にわたって身の回りの世話をしていた特別縁故者には、相続財産の大部分が分与されることもあります。一方、被相続人との交流が少なかった特別縁故者への分与割合は低くなる傾向にあります。
まとめ
以上、特別縁故者制度の概要について解説してきました。弁護士法人ポートでは、このような特別縁故者による財産分与の問題についてもご相談をお受けしております。ご不明点のある方や、特別縁故者による財産分与請求のご依頼をお考えの方は、どうぞお気軽にお問い合わせ下さい。
当事務所での解決事例
- 被相続人の従兄弟を代理して特別縁故者に対する相続財産分与の申立てをし、数千万円に上る残余相続財産につき全部財産分与の審判を受けた事例。
- 被相続人の再従兄弟を代理して特別縁故者に対する相続財産分与の申立をし、数百万円の財産分与を認める審判を受けた事例。