遺産分割前の相続人による自宅使用と不当利得

1年前、被相続人の父(A)が亡くなりました。父は離婚しているため、相続人は私(B)と弟(C)、妹(D)です。私は晩年の父と同居し父の面倒を看ており、父の他界後も現在まで、父名義の自宅建物に住んでいます。C及びDとは遺産分割の協議をしているのですが、彼らから、父名義の家に独りで住んでいるのだから相続開始後1年分の家賃相当額を払うよう求められています。私は兄弟に、これを支払わなくてはならないのでしょうか。

自宅不動産の使用貸借契約

共有物の使用と不当利得返還請求権

相続開始により遺産共有状態となる

被相続人の死亡により相続が開始すると、被相続人の所有していた不動産は、ひとまず相続人の共有となります。

相談例のケースでいえば、Aさんの自宅については、相続人であるBさん、C氏、D氏がそれぞれ1/3ずつを共有する関係になるということです。

共有物の使用と不当利得

共有物の使用につき、民法249条は、「各共有者は、共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができる。」と規定しています。したがって、ある共有不動産を単独で使用する共有者に対し、他の共有者が当該不動産の明け渡しを当然に求めることはできません。

しかし他方で、判例上、共有者の一人が共有物の上に権利を行使するにあたり、法律上の原因なくして利益を受け、これがために他の共有者に損失を及ぼしたときには、不当利得としてその利益を他の共有者に返還しなければならないともされています。

被相続人と同居していた相続人

被相続人と同居していた相続人の建物占有権原

相談例のケースでは、被相続人Aさんが亡くなった後、相談者Bさんは、あくまで遺産共有者のひとりとして自宅建物を利用してきたということになります。そうすると、Bさんは、他の遺産共有者であるC氏やD氏に対し、賃料に相当額の不当利得金を支払わなくてはならないのでしょうか。

しかし、父であるAさんの許諾のもとに同居していたBさんが、相続開始と同時に突然家賃相当額の支払い義務を負うこととなるというのも、少し酷であるような感じもします。

最高裁判例

こうした問題について、最高裁判所第三小法廷平成8年12月17日判決は、次のようなことを述べています。

共同相続人の一人が相続開始前から被相続人の許諾を得て遺産である建物において被相続人と同居してきたときは、特段の事情のない限り、被相続人と右同居の相続人との間において、被相続人が死亡し相続が開始した後も、遺産分割により右建物の所有関係が最終的に確定するまでの間は、引き続き右同居の相続人にこれを無償で使用させる旨の合意があったものと推認されるのであって、被相続人が死亡した場合は、この時から少なくとも遺産分割終了までの間は、被相続人の地位を承継した他の相続人等が貸主となり、右同居の相続人を借主とする右建物の使用貸借契約関係が存続することになるものというべきである。

要するに、同居関係にあった被相続人と相続人との間には、原則として、遺産分割が終了するまでの間については、自宅建物の使用貸借契約(無償使用契約)が成立していたと認められるということです。もちろん、被相続人がそのような無償使用をさせる意思のないことを明確に表示していた場合など、例外的な場合には相続人の無償使用契約は推認されません。しかし、この判例は、同居相続人の居住権に対し一定の配慮を示したものといえるでしょう。

まとめ

以上の最高裁判例によれば、相談例のケースでも、Bさんは遺産分割の終了時までは、原則としてC氏及びD氏に対する家賃相当額の支払いをする必要はなさそうです。

もっとも、上記の最高裁判例の射程範囲については注意が必要であり、例えば次のような事案については使用貸借契約の成否について別の検討が必要となると考えられます。

  1. 土地や非居住建物の占有権原が問題となるケース
  2. 被相続人の承諾が認められないケース
  3. 遺産共有でなく、遺留分減殺により共有関係が生じたケース

このため、上記判例の適用が可能かどうかの問題を含め、相続により共有となった不動産の使用料問題で実際にお困りの方は、ぜひ一度弁護士への相談をなさることをお勧めします。

宮嶋太郎
代表パートナ弁護士
東京大学法学部在学中に司法試験合格。最高裁判所司法研修所にて司法修習(第58期)後、2005年弁護士登録。勤務弁護士を経験後、独立して弁護士法人ポートの前身となる法律事務所を設立。遺産相続・事業承継や企業間紛争の分野で数多くの事件を解決。

私たちが丁寧にわかりやすくお話します。

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