相続放棄するべき?収集する情報や判断基準、注意事項について弁護士が解説

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「相続放棄したほうがよいか?、そのまま相続するべきか・・・・」

相続人となった人は、自身の相続人としての立場を法的に放棄するのか、それとも相続人として亡くなった被相続人の財産を引き継ぐのかを決めなくてはなりません。 このページでは、相続人となった方が、相続放棄するかどうかの検討をするに際し押さえておくべき基本知識について弁護士が解説します。

相続人の3つの選択肢とは

相続が開始した場合、相続人は自分の相続人としての地位をどうするのか、次の3つの選択肢のうちから決める必要があります。

  1. 単純承認:被相続人の積極財産(不動産や預貯金)だけでなく、消極財産(借金等の債務)のすべてを相続人として引き継ぐ。
  2. 限定承認:相続により取得する積極財産の限度で相続債務の負担を引き継ぐ。
  3. 相続放棄:相続人としての地位を捨て、一切の権利や義務を引き継がない。

上の3つの選択肢のうち、圧倒的に多いのは単純承認です。次は相続放棄でありここ数年は年間20万件程度。限定承認はこれらに比べると極めて活用事例が少なく、年間で1000件にも満たない状況です。

まずは判断材料の収集を

では単純承認・限定承認・相続放棄の中からどれを選択したらよいでしょうか。その選択を適切に行うために、まずは判断の材料となる情報の収集を行ってください。

  1. 積極財産(資産)に関すること:不動産、預貯金、有価証券、自動車、貸付金などのプラスの価値のある財産の範囲とのその評価額。
  2. 消極財産(負債)に関すること:借入金や保証債務、損害賠償債務、未払いの税金などマイナスの価値のある財産の範囲とその評価額。
  3. 相続人に関すること:共同相続人は誰か、各相続人の相続に関する意見等
  4. その他の情報:生前贈与の有無やその金額、相続財産の維持・管理に必要なコストに関する情報等

必要な情報は個別の事案ごとに異なりますが、一般的には次のような情報を収集することが、あなたの判断にとって有益な材料となるでしょう。

相続放棄する・しないの判断基準は?

判断材料となる情報がある程度集まった場合、どのような基準で相続放棄するかしないかを決めればよいでしょうか。

この点、相続放棄をするかどうかはいわゆる身分行為の一種とされており、相続人が基本的に自由に決めることができます。つまり、この事情があれば放棄しなければならないという決まりはありません。また、相続放棄をする理由や動機に何か制限があるわけでもありません

しかし、一般的には、次のような要素を考慮して、相続放棄の選択がなされる傾向にあります。

資産<負債ならば相続放棄が基本

被相続人が遺した資産と負債を比較し、負債が資産を大幅に上回っている場合には相続放棄を選択するケースが多いです。相続放棄をしてしまえば、その相続人は遺産を取得することはできませんが、他方で相続債務の承継を回避でき、自己の固有財産から相続債務の支払を行う必要がなくなるためです。ただし、相続人自身が相続債務について別途連帯保証をしているようなケースでは、相続放棄をしたからといって、相続人自身の保証人としての責任がなくなるわけではないのでご注意ください。

資産>負債だが資産の維持コスト等が過大な場合

被相続人の資産はその負債よりも多いが、相続財産を維持するために多大なコストが見込まれる、あるいは、相続財産を保有することのリスクが大きいというようなケースでは、こうしたコストやリスクを回避する目的で相続放棄を選択することが合理的なこともあります。例えば、被相続人に負債はないが、主要な遺産は任意売却困難な空き家だけというような事案で、空き家の保有を継続することにより発生する固定資産税等の維持コストや、老朽化した空き家が原因となる事故による損害賠償リスクを考慮して、相続放棄の選択をするというようなことが考えられます。

相続紛争に巻き込まれることを回避したい

他の相続人と折り合いが悪く、遺産分割協議となればもめることが確実視されるような場合、いくら相続財産があっても、相続紛争に巻き込まれることを回避する目的で相続放棄を選択される方もいます。但し、このようなケースでは、相続放棄ではなく、自己の相続分を他の相続人に有償で譲渡するという方法で目的を達成することも考えられます。

特定の相続人に相続財産を集中させたい

相続放棄をすることで、残ったほかの相続人が遺産を相続することになるため、特定の相続人に相続財産を集中させる目的で、相続放棄がなされるケースもあります。これは、被相続人が営んでいた事業に必要な財産(農家であれば土地等)を当該家業を引き継ぐ相続人に集中させるため、家業を引き継がない相続人が揃って相続放棄をするというようなケースです。

遺留分の算定基礎となる財産を減らしたい

これは少しレアなケースですが、ある相続人が被相続人から生前贈与を受けており、しかも相続開始時に残っている遺産が生前贈与に比べて極めて少ないというような場合に、生前贈与を受けた相続人が、他の相続人から受ける遺留分侵害額請求の金額を減少させるために、相続放棄を選択するということがあります。

申述期間制限に注意

相続放棄をするかどうかの検討に際し、必ず押さえておくべき注意事項のひとつとして、相続放棄申述の期間制限があります。

3ヶ月以内が原則

相続放棄の手続きは、家庭裁判所に相続放棄の申述書という書類を提出することによって行いますが、この相続放棄の申述は、民法により、「自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内」にしなければならないと定められています。これは相続放棄の熟慮期間とも呼ばれます。

この熟慮期間内に相続放棄をしない場合、その相続人は単純承認をしたもの扱われます。熟慮期間を経過した後になされた相続放棄の申述は、家庭裁判所に却下されてしまいます。

熟慮期間の伸長も可能

相続放棄をするかどうかを判断するための財産調査に時間がかかり、熟慮期間内に相続放棄をするかどうかの判断をすることができない場合、家庭裁判所に熟慮期間伸長の請求をすることにより熟慮期間を延長してもらうことが可能です。熟慮期間伸長の請求にあたっては、裁判所に対しその理由を説明することが必要となりますが、例えば次のような事情が理由となり得るでしょう。

  1. 生前の被相続人と疎遠である
  2. 被相続人がの資産や負債が多岐にわたる
  3. 被相続人の資産の鑑定評価に時間を要する

上記のような事情がある事案であれば、実務上、熟慮期間の伸長は比較的容易に認められています。1回目の伸長は3ヶ月程度とされることが多いです。

相続開始から3ヶ月経過後の相続放棄は弁護士に相談を

相続放棄のための熟慮期間は、一般的には、相続人において、被相続人が亡くなったことを知った時点から計算されることが多いといえます。しかし、熟慮期間がいつから始まるか(これを熟慮期間の起算点といいます)については、個別の事案によって解釈の余地があります。

このため、被相続人が亡くなったあと3ヶ月が経過した事案であっても、個別の事情によっては熟慮期間の起算点を遅らせることで、相続放棄の申述が可能となることも少なくありません。そのような事案でも、相続放棄は不可能と自分だけで決めつけることなく、まずは弁護士に相談することをお勧めします。

相続放棄決断までの間に「してはいけない」行為とは

相続放棄をするかどうか検討している間、相続人が決して行ってはいけない行為があります。それは、被相続人の財産の全部または一部を処分したり、隠匿・費消してしまう行為です。

法定単純承認とは

民法921条には、法律上定められた一定の事実があった場合には、相続人は単純承認をしたものとみなすという規定があります。これを法定単純承認の制度と言います。

法定単純承認に該当する事実があった場合には、その相続人は自動的に単純承認をしたことになり、熟慮期間内であっても、被相続人の権利義務を無限に引き継ぐことが確定されてしまいます。つまり、相続人が法定単純承認事由に該当する行為をしてしまった場合には、有無をいわさず単純承認することが決まるという仕組みで、その後に相続放棄の申述をしてもそれは有効な相続放棄とはならないということになります。

この意味で、法定単純承認制度は、相続放棄を検討する相続人にとては非常に重要、かつ恐ろしい制度です。

具体的にどんなことをすると単純承認になる?

民法921条が定める法定単純承認事由のうち、相続放棄を検討している相続人が最も注意しなくてはならない行為として、相続財産の「処分」や「費消」が挙げられます。

相続財産の「処分」とは、被相続人が所有していた土地や自動車などを売却・名義変更してしまう行為、「費消」は預貯金を解約してが私的な費用に充てる行為などが典型ですが、一部の遺産についての遺産分割協議書に応じてしまう、遺産を担保として提供してしまうなどの行為も含まれます。裁判例では、被相続人が保有していた未上場株式について、相続人が株主として議決権を行使する行為が「処分」に当たるとされた事案もあります。

なお、例外として、保存行為や一定期間以下の賃貸借は「処分」に当たらないと規定されています。また、相続債務の弁済や、相続財産からの葬儀費用の支出、墓石の購入等が「処分」にあたらないとされた裁判例もあります。いわゆる形見分けのような、故人の所有動産を親族で分けるというような行為は、対象の経済的価値がない場合には、解釈上「処分」には該当しないと考えられてもいます。

しかし、相続放棄後に債権者から法定単純承認事由があったと指摘を受けること自体が、相続放棄をすることの意味を半減させることになりますので、事後のトラブルになる可能性のある行為は極力避け、少なくとも事前に弁護士に相談することをおすすめします。

相続放棄の費用はどれくらいかかる?

相続放棄の手続きを進めるための費用は、

  1. 専門家に依頼するか、自分で行うか
  2. (専門家に依頼する場合)相続人や財産の調査まで依頼するか
  3. (専門家に依頼する場合)相続人が亡くなったことを知ってから3ヶ月以内かどうか

などの事情によって変動します。当然ながら、すべてを自分の手で行う場合の費用が最も安く、裁判所の手数料(収入印紙代)は申述人1名につき800円、その他住民票や戸籍謄本等の取得費用を考慮しても、数千円程度の範囲で収まるケースが多いでしょう。

他方、弁護士や司法書士のような専門家に依頼する場合、専門家に支払う報酬を負担する必要がありますので、ご自身で手続きを進める場合と比較すれば費用は高くなります。複雑な調査が不要なケースであれば、一般的には10万円程度の事務所が多いでしょう。なお、相続放棄の手続に必要となる費用を相続財産から拠出することはできません(相続放棄をする相続人の自己負担となります)。

まとめ

以上、相続放棄をするかどうかを判断する際に必要となる基本的な情報や、一般的な判断の基準、その他の注意事項について解説しました。

相続放棄をするかどうかの判断は、相続財産を処分してしまう前の段階で、しかも一定の期間内に行う必要があり、その意味である程度のスピードも要求されます。

情報の収集方法や相続放棄・限定承認・単純承認の選択について具体的なご不安がある方は、ぜひ一度、弁護士へのご相談をおすすめします。

弁護士法人ポートでは、相続放棄についてのご相談・ご依頼をお受けしています。相続放棄についてお困りの方は、ぜひ、当事務所の遺産相続無料法律相談をご利用下さい。

宮嶋太郎
代表パートナ弁護士
東京大学法学部在学中に司法試験合格。最高裁判所司法研修所にて司法修習(第58期)後、2005年弁護士登録。勤務弁護士を経験後、独立して弁護士法人ポートの前身となる法律事務所を設立。遺産相続・事業承継や企業間紛争の分野で数多くの事件を解決。

私たちが丁寧にわかりやすくお話します。

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