代襲相続と養子

被相続人Aが先日亡くなりました。私(B)は、被相続人の唯一の弟です。Aには、妻Cがいました。また、実子がいなかったことから、10年前にCの姪であるDを養子にしました。しかし、CもDも3年前に事故で亡くなってしまいました。ただ、Dには息子であるEがいます。今回、誰がAの相続人となるのでしょうか。

代襲相続と養子

代襲相続の有無がポイント

今回誰が相続人となるかは、被相続人の子であるDを被代襲者とする代襲相続が発生するかどうかがポイントとなります。

代襲相続とは

代襲相続とは、被相続人の相続開始時に、本来の相続人となるはずであった者が死亡等により相続資格を失っている場合に、その者の子が相続人となる制度です。

Dは、被相続人Aの子にあたりますが、被相続人の子の代襲相続については、次のような規定があります。

第八百八十七条 第2項

  • 2  被相続人の子が、相続の開始以前に死亡したとき、又は第八百九十一条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その相続権を失ったときは、その者の子がこれを代襲して相続人となる。ただし、被相続人の直系卑属でない者は、この限りでない

代襲者=「被相続人の直系卑属」であることが必要

DはAの養子であり、「被相続人の子」にあたります。そして、Dは被相続人Aよりも先に亡くなっていますので、「相続の開始以前に死亡」という要件も満たされます。

しかし、上記の規定からわかるとおり、民法では、「被相続人の子」の子にあたる者が「被相続人の直系卑属でない者」の場合には、代襲相続が発生しないと規定されています。したがって、Eが被相続人Aの直系卑属であるかどうかが、Eが代襲相続人となり得るかどうかのポイントとなります。

養子の子が養親の直系卑属となるには

では、Eのような立場にある「被相続人の養子の子」は、被相続人の直系卑属となるのでしょうか。

直系卑属とは

直系卑属とは、子や孫など、基準とする者からみて下の世代の血族で、直通する系統にある者ことをいいます。そうすると、一見、Dの子であるEは、被相続人Aとの関係でも常に直系卑属となるようにも思えます。

養親・養子・養子の子の法律関係

しかし、養親にあたる者(A)と養子の子にあたる者(E)との間に法律上の血族関係が認められるかどうかは、養子の子が、養子縁組前に生まれたかどうかによって結論が異なってきます。

1 養子縁組後に生まれた子である場合

養子の子が、養子と養親間の縁組成立後に生まれた子である場合には、以下の規定により、養親の直系卑属となります。すなわち、養子縁組の日以降、養親と養子は血族同士と同じ親子関係となりますので、その後に生まれた子については、養親との法定血族関係が発生します。

第七百二十七条 (縁組による親族関係の発生)

  • 養子と養親及びその血族との間においては、養子縁組の日から、血族間におけるのと同一の親族関係を生ずる。

2 養子縁組後に生まれた子である場合

これに対し、養親は、養子縁組時点の養子の親族とは親族関係とはなりません。したがって、養子の子が、養子と養親間の縁組成立後前に生まれた子である場合には、養親の直系卑属とはなり得ないわけです。

まとめ-養子の子が代襲者となるには

以上のことから、設問のケースでは、Eが生まれた時期がA・D間の養子縁組の前であるか後であるかによって、結論が異なることになります。

A・D間の養子縁組が10年前とのことですので、それ以降にEが生まれたのであれば、代襲相続により、被相続人Aの相続財産は全てEが取得することになります。

他方、A・D間の養子縁組以前にEが生まれていたのであれば、Dを被代襲者とする代襲相続は発生せず、被相続人Aの相続財産は全てAの兄弟であるBが取得することになります。

宮嶋太郎
代表パートナ弁護士
東京大学法学部在学中に司法試験合格。最高裁判所司法研修所にて司法修習(第58期)後、2005年弁護士登録。勤務弁護士を経験後、独立して弁護士法人ポートの前身となる法律事務所を設立。遺産相続・事業承継や企業間紛争の分野で数多くの事件を解決。

私たちが丁寧にわかりやすくお話します。

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