誰が代襲相続人になれる?相続分はどれくらい?代襲相続の基本を弁護士が解説。
相続における代襲相続は、しばしば予期しない複雑さをもたらします。
この記事では、代襲相続の基本原則とその適用例を、専門知識を持つ弁護士がわかりやすく解説します。
(相談例)
先日、被相続人Aが亡くなり、遺産分割をすることになりました。Aには、妻であるBと、子のC及びDがいたのですが、CはA氏より先に他界していたのです。Cには中学生になるEという子供(A氏から見れば孫にあたります)がいるのですが、Eが相続人となることはできるでしょうか。
代襲相続とは
民法の定める法定相続人の原則によれば、設問のケースでB・C・Dが生存しているときには、被相続人の配偶者であるBと子であるC及びDが相続人となります。しかし、今日のような高齢化社会では、設問のように子供が親より先に亡くなるなど、相続開始時に本来の相続人が死亡しているというケースが少なくありません。このような事例では、代襲相続の制度について理解しておく必要があります。
代襲相続とは
代襲相続とは、被相続人の相続開始時に、本来の相続人となるはずであった者が死亡等により相続資格を失っている場合に、その者の子が相続人となる制度です。
本来相続人となるはずであった者が被相続人の財産を相続していれば、次世代の子はこれをさらに相続によって取得することができたはずです。このことから、本来相続人となるはずであった者が死亡等していたときには、代襲相続を認めるのが衡平の原則に叶うという点が、制度の趣旨であると考えられています。
被相続人の孫であるEが相続人に
設問のケースでは、Aが死亡した時点で、本来相続人となるはずであったCが既に死亡していたため、その子であるEがCを代襲してAの相続人となります。このときのEを代襲者、Cを被代襲者といいます。
また、代襲相続が発生する原因(このケースではCが既に死亡していたこと)のことを代襲原因といいます。
被相続人の子についての代襲相続
民法では、代襲相続が発生するパターンとして、
- 被相続人の子が被代襲者となるケース(代襲相続人は孫)
- 被相続人の兄弟姉妹が被代襲者となるケース(代襲相続人は甥や姪)
を定めています。まず、前者からみていきましょう。条文は以下のとおりです。
第八百八十七条 第2項
- 2 被相続人の子が、相続の開始以前に死亡したとき、又は第八百九十一条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その相続権を失ったときは、その者の子がこれを代襲して相続人となる。ただし、被相続人の直系卑属でない者は、この限りでない。
代襲原因
被相続人の子の代襲相続については、代襲相続が発生する原因として、次の3類型が定められています。
- 被相続人の子の死亡:被相続人の死亡以前に被代襲者が死亡していた必要があります
- 被相続人の子に相続欠格事由があること:被相続人の死亡の前後を問わず、被代襲者が相続欠格事由(民法891条の規定)に該当した場合です
- 被相続人の子が廃除されたこと:被相続にの死亡の前後を問わず、被代襲者が相続廃除の審判を受けた場合です
なお、相続放棄は代襲原因とはなりませんので、注意が必要です。
代襲者の要件
上記の規定により代襲相続が発生するためには、代襲者についても、次のような要件を満たしている必要があるとされています。
- 被代襲者の子であること:被代襲者(被相続人の子)の子である必要があります。実子か養子かは問いません。
- 被相続人の直系卑属にあたること:被代襲者が被相続人の養子である場合には注意が必要です。
- 被相続人の死亡時に存在すること:被代襲者・代襲者ともに既に死亡している場合には、再代襲の問題となります。
代襲相続人の取得する相続分
代襲相続人は、被代襲者が受けるはずであった相続分をそのまま取得することになります。
設問のケースでいえば、被相続人の財産のうちCが4分の1を取得するはずでしたので、その代襲者であるEは、Aの遺産の4分の1の相続分を取得するということになります。
被相続人の兄弟姉妹についての代襲相続
次に、代襲相続が発生するパターンのうち、
- 被相続人の兄弟姉妹が被代襲者となるケース
をみていきましょう。要するに被相続人の甥や姪が代襲相続人となる場合です。条文は以下のとおりです。
第八百八十九条 (直系尊属及び兄弟姉妹の相続権)
- 次に掲げる者は、第八百八十七条の規定により相続人となるべき者がない場合には、次に掲げる順序の順位に従って相続人となる。
- 一 被相続人の直系尊属。ただし、親等の異なる者の間では、その近い者を先にする。
- 二 被相続人の兄弟姉妹
- 2 第八百八十七条第二項の規定は、前項第二号の場合について準用する。
代襲原因
被相続人の兄弟姉妹を被代襲者とする代襲相続については、代襲相続が発生する原因として、次の2類型があります。
- 被相続人の兄弟姉妹の死亡:被相続人の死亡以前に被代襲者が死亡していた必要があります
- 被相続人の兄弟姉妹に相続欠格事由があること:被相続人の死亡の前後を問わず、被代襲者が相続欠格事由(民法891条の規定)に該当した場合です
なお、条文上、被相続人の兄弟姉妹が廃除の審判を受けた場合も含まれるように見えます。しかし、そもそも兄弟姉妹には遺留分が認められておらず、兄弟姉妹が廃除の対象となることはありません。このため、兄弟姉妹については、廃除が代襲原因となることもないのです。
代襲者の要件
上記の規定により代襲相続が発生するためには、代襲者についても、次のような要件を満たしている必要があるとされています。
- 被代襲者の子であること:被代襲者の子(被相続人からみると甥や姪)である必要があります。
- 被相続人の死亡時に存在すること:被代襲者が被相続人の兄弟姉妹である場合、代襲者が相続開始時に既に死亡していると、再代襲相続は発生しません。
代襲相続人の取得する相続分
代襲相続人は、被代襲者が受けるはずであった相続分をそのまま取得することになります。これは、被代襲者が被相続人の子であるか、被相続人の兄弟姉妹であるかで変わることはありません。
なお、被代襲者が兄弟姉妹である場合、そもそも兄弟姉妹には遺留分が認められないことから、兄弟姉妹を被代襲者とする代襲相続人には遺留分が認められません。
再代襲相続
代襲相続の応用編として、被相続人の死亡時において、被代襲者のみならず、代襲者についても代襲原因がある場合はどうなるでしょうか。被相続人の子と孫が先に死亡し、曾孫のみが生存しているというようなケースです。
再代襲相続
民法では、被相続人の子が被代襲者となる場合について、次の規定をおいています。
第八百八十七条 第3項
- 3 前項の規定は、代襲者が、相続の開始以前に死亡し、又は第八百九十一条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その代襲相続権を失った場合について準用する。
要するに、被相続人の子だけでなく、孫についても代襲原因があるときには、さらに次の世代である曾孫に相続人の地位を与えようということです。これを再度の代襲相続という意味で、再代襲相続といいます。
なお、かなりのレアケースとはなりますが、上記の規定によって、再代襲相続のみならず、再々代襲相続も認められます。
兄弟姉妹には再代襲相続が認められない
これに対し、被相続人の兄弟姉妹が被代襲者となる場合には、再代襲相続が認められないことには注意が必要です。
兄弟姉妹についての代襲相続を規定した民法889条2項は、再代襲相続を規定した民法887条第3項を準用するとしていないため、兄弟姉妹が被代襲者となる場合には再代襲相続が認められないのです。
兄弟姉妹の再代襲相続が認められる事案?
被相続人の兄弟姉妹については再代襲相続を否定するのが現行法です。しかし、過去には、これが認められている時代がありました。昭和23年から昭和55年に開始した相続については、当時の民法により、被相続人の兄弟姉妹について再代襲相続が認められていましたので注意が必要です。