遺産分割において土地の無償使用が特別受益となるか

遺産分割において、相続人間の公平性を確保するために「特別受益」の制度があります。特別受益とは、被相続人が生前に特定の相続人に対して行った贈与や経済的利益の供与を考慮して遺産分割における具体的相続分を調整する仕組みです。

本記事では、相談者Aと弁護士Bの具体的な会話を通じて、相続人による土地の無償使用が特別受益に該当するかどうか、またその評価方法と相続分への影響について詳しく解説します。

相談風景

相談の背景

相談者A: こんにちは、弁護士Bさん。遺産分割の件で相談があります。父が亡くなり、相続人となった兄と私で遺産分割を進めているのですが、兄が父の土地に建物を建てて無償で長年使用していたんです。このことを考慮して、兄の相続分を減らすことはできないでしょうか?

弁護士B: こんにちは、Aさん。遺産分割に関するご相談ですね。お兄さんが無償で土地を使用していたことが特別受益に当たるかどうかということが問題となります。特別受益制度とは、被相続人が特定の相続人に対して生前に行った贈与や遺贈のうち、遺産の前渡しであると評価できるものを考慮して、最終的な相続分を調整する仕組みのことです。

特別受益の判断基準

相談者A: 具体的にはどのような場合に特別受益と認められるのでしょうか?

弁護士B: 特別受益と認められるためには、被相続人が相続人に対して行った経済的利益の供与が遺産の前渡しであると評価できる必要があります。典型的な具体例としては、自宅の建築資金としてのまとまった金銭贈与などが挙げられます。

相談者A: では、今回のように兄が無償で土地を使用していた場合、それも特別受益に含まれる可能性があるのですか?

弁護士B: そうですね。一般的には、被相続人の土地を無償で使用して相続人が建物を所有していた場合、その相続人について特別受益が認められるケースが多いです。

特別受益の評価方法

相談者A: なるほど。土地の無償使用が特別受益と認められる場合、その評価方法はどうなるのでしょうか?

弁護士B: 土地の無償使用が特別受益と認められる場合、その評価方法としては、土地の使用借権相当額を基準とします。具体的には、建物構造などによっても前後しますが、更地価格の2割前後の金額を評価額とします。この評価額が特別受益の金額として遺産分割における具体的相続分の計算に反映されます。

持戻し計算の影響

相談者A: その反映方法はどのようになるのでしょうか?

弁護士B: 特別受益と認められた場合、その金額が持戻し計算に影響します。具体的には、相続財産の総額に特別受益額を加算(加算後のものを「みなし相続財産」といいます。)した上で、みなし相続財産に対する各相続人の法定相続分を計算します(これを「一応の相続分」といいます。)。その後、特別受益を受けた相続人は、一応の相続分から既に受けた利益を控除した残りの相続分を受け取ることになります。

例えば、相続財産が3,000万円で特別受益が1,000万円と認められた場合、みなし相続財産は4,000万円として計算され、お兄さんの一応の相続分は2000万円となります。その上で、お兄さんは既に1,000万円を受け取っているため、遺産分割におけるお兄さんの具体的相続分は1,000万円、Aさんの具体的相続分は2,000万円ということになるわけです。

相談者A: なるほど、特別受益が認められることで遺産分割で取得できる相続分の計算方法が変わるのですね。

弁護士B: ただし、特別受益について、被相続人による持ち戻し免除の意思表示が認められる場合には、持戻し計算をすることができないことに注意が必要です。また、使用貸借権の負担が付いた土地は、更地価格から一定の減価がなされるのが通常です。

相談者A: わかりました。ちなみに、土地の使用料相当額を特別受益と見ることはできないのでしょうか。

弁護士B: 実際にそのような主張がなされた裁判例では、土地の使用料相当額は特別受益となる使用借権に織り込まれているものとして、主張が排斥されています。

相談者A: よくわかりました。ありがとうございます。

弁護士B: どういたしまして。遺産分割は複雑な問題が絡むことが多いので、また何かあればいつでもご相談ください。

まとめ

遺産分割において、特別受益が認められるかどうかは相続人間の公平性を確保するために重要です。特に、被相続人の土地を無償で使用していた場合、その評価方法や相続分への影響については専門的な知識が求められます。

実際の遺産分割は個々のケースによって異なるため、専門家のアドバイスが不可欠です。弁護士法人ポートでは、遺産分割に関する専門的な知識と経験を持つ弁護士が、皆様のご相談をお待ちしております。遺産分割に関する疑問やお困りのことがございましたら、ぜひお気軽にご相談ください。

宮嶋太郎
代表パートナ弁護士
東京大学法学部在学中に司法試験合格。最高裁判所司法研修所にて司法修習(第58期)後、2005年弁護士登録。勤務弁護士を経験後、独立して弁護士法人ポートの前身となる法律事務所を設立。遺産相続・事業承継や企業間紛争の分野で数多くの事件を解決。

私たちが丁寧にわかりやすくお話します。

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