特別寄与料について知っておくべき知識

令和元年7月1日から「特別寄与料」に関する制度が導入されました。この記事では、その概念と請求方法や注意点について紹介します。

特別寄与料とは?

相続における「特別寄与料」とは、相続人以外の親族が、労務提供によって被相続人の財産の維持や増加に対する特別な貢献をしたことを理由として、相続人に対して請求できる金銭のことをいいます。特別寄与料の制度は、令和元年7月から施行された民法1050条に定められており、比較的新しい制度ということができます。

(特別の寄与)
第千五十条 被相続人に対して無償で療養看護その他の労務の提供をしたことにより被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした被相続人の親族(相続人、相続の放棄をした者及び第八百九十一条の規定に該当し又は廃除によってその相続権を失った者を除く。以下この条において「特別寄与者」という。)は、相続の開始後、相続人に対し、特別寄与者の寄与に応じた額の金銭(以下この条において「特別寄与料」という。)の支払を請求することができる。
2 前項の規定による特別寄与料の支払について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、特別寄与者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができる。ただし、特別寄与者が相続の開始及び相続人を知った時から六箇月を経過したとき、又は相続開始の時から一年を経過したときは、この限りでない。
3 前項本文の場合には、家庭裁判所は、寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して、特別寄与料の額を定める。
4 特別寄与料の額は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から遺贈の価額を控除した残額を超えることができない。
5 相続人が数人ある場合には、各相続人は、特別寄与料の額に第九百条から第九百二条までの規定により算定した当該相続人の相続分を乗じた額を負担する。

引用元:e-Gov法令検索

特別寄与料が発生しうる労務提供には、療養看護のほか、家事労務、事業継続支援などがあります。例えば、被相続人が重度の認知症であった場合、長期にわたりその介護を無償で行った家族は特別寄与料を請求できる可能性があります。また、親族が労務を提供して被相続人の事業を支援し、その価値を高めた場合も該当します。

制度導入の背景

特別寄与料と似たものとして、寄与分の制度があります。これは、被相続人の財産の維持や増加について特別の貢献をした相続人に対して、その貢献に応じて具体的な相続分を増加させるという制度です。

しかし、寄与分が認められるのはあくまで「相続人」に限られています。このため、従前は、相続人以外の親族がいくら特別の貢献をしたとしても、かかる貢献に応じた遺産の分配を行うことは理論上難しいという問題がありました。被相続人と同居していた子の妻が、長期間に渡って義父である被相続人の介護に専念したにもかかわらず、遺産分割において、(自身は相続人ではない)妻個人に対する遺産の分配をする法的根拠がなかったというケースが典型です。

こうした問題を解消し、親族の被相続人に対する無償の特別な貢献があった場合、その貢献者自身が遺産の分配に関し適切な評価を与え、相続における公平性を保つための仕組みとして、特別寄与料の制度が導入されました。

特別寄与料の基本知識

以下では「特別寄与料」について知っておくべき基本知識について、以下の4つの観点から解説します。

誰が請求できる?

特別寄与料の請求は、「被相続人の親族(但し、相続人、相続放棄者、相続欠格者、相続廃除された者は除く)」のうち、被相続人に対して「無償で労務提供」をしたことにより、被相続人の財産の維持または増加について「特別な寄与」をした者(特別寄与者)が行うことができます。

■親族って?

ここで親族とは、被相続人の6親等以内の血族、配偶者、3親等以内の姻族をいいます。

(親族の範囲)
第七百二十五条 次に掲げる者は、親族とする。
一 六親等内の血族
二 配偶者
三 三親等内の姻族

引用元:e-Gov法令検索

但し、親族に該当しても以下のような人は特別寄与料の請求はできません。

  1. 相続人(寄与分の制度によることになります)
  2. 相続放棄をした人
  3. 相続欠格や廃除により相続権を失った人

■無償の労務提供って?

これには、被相続人の療養看護、家事労務の提供、事業への貢献などが含まれます。ポイントは「労務提供」という部分であり、特別寄与者が被相続人に労務を提供するのではなく、金銭を贈与するなどして被相続人の財産の維持増加に貢献しても特別寄与料の対象とはなりません。

■被相続人の財産の維持又は増加に対する特別の寄与って?

特別寄与者の労務提供によって、その労務提供がなければ被相続人が支出することになるはずだった出費を免れたこと(例:介護費用の出費回避)や、その労務提供によって被相続人の財産が増加したことを意味します。

なお、特別寄与者は、必ずしも被相続人に対する扶養義務を負う者ではないため、「特別の寄与」の有無は、労務提供者に通常期待される貢献との比較ではなく、その労務提供による貢献に報いるのが相当であるかどうかという観点から判断するものと考えられています。

誰に請求できる?

特別寄与者は、相続人に対して特別寄与料の請求をすることができます。

なお、相続開始後に相続放棄をした人には請求できません。これは、相続放棄者は、相続開始当初から相続人とならなかったものとみなされるためです(民法939条)。

相続人が複数いる場合、各相続人の負担額は、特別寄与料の総額を各相続人の相続分(相続割合)で按分した金額となります。ここでいう相続分とは、相続分の指定がなされていないときは法定相続分であり、相続分の指定があるときは指定相続分です(特別受益等を考慮した具体的相続分ではありません)。

遺言書で指定相続分をゼロとされた場合は?

遺言書で指定相続分をゼロとされた相続人は特別寄与料を負担するでしょうか。この点、2023年10月26日の最高裁判所の決定は、遺言で全財産を一人の子に渡すことが指定されていた中で、指定相続分なしとされたものの遺留分侵害額請求権を行使した他の法定相続人に対し、特別寄与分の請求がなされた事案です。

上記事案で、下級審は遺言によって指定相続分がなしされている以上、遺留分侵害額請求権を行使したかどうかにかかわらず、その相続人は特別寄与料を負担しないと判断され、最高裁もこれを支持しました。この判断は、遺留分侵害額請求権の行使の有無は、特別寄与料の負担額に影響しないことを示しているといえるでしょう。

いくら請求できる?

特別寄与料の具体的な金額は、個々の事案における、特別寄与者の寄与の程度や被相続人の財産状況によって異なります。

一般的には、特別寄与の内容(寄与の期間、労務の性質、財産の維持増加に与えた影響等)と相続財産全体の価値を総合的に考慮して算出されます。裁判所では、特別寄与者の労務提供の類型に応じ、寄与分における算定方法を参考として用いることが通常です。

ただし、特別寄与料の額には上限があり、相続開始時点の被相続人の財産の価額から遺贈の価額を控除した残額を超えることはできないとされています。

どんな請求手続きが必要?

特別寄与料の有無や金額は、当事者で協議が可能であればその話し合いで決めればよく、必ずしも裁判所の手続を使う必要はありません。

しかし、当事者間での協議が整わない場合(一方が協議に応じない場合も含む)、特別寄与料の請求者は家庭裁判所に家事調停や家事審判の申立をすることができます。家事調停は家庭裁判所で調停委員を介した話し合い、家事審判は特別寄与料の有無や金額を裁判官が決定する手続きです。遺産分割調停が

調停や審判の申立に際しては、特別寄与の内容と影響、請求する金額、相続人の情報、遺産の情報などを含む書類を提出する必要があります。このプロセスは複雑であり、通常、専門家のアドバイスを受けることが推奨されます。

いつまでに請求しなくてはいけない?

特別寄与料の請求には期限が設定されています。相続開始と相続人を知った時から6ヶ月、または相続開始から1年を経過すると、請求権が消滅します(いずれも除斥期間です)。

したがって、特別寄与者はこれらの期限内に手続きを進める必要があります。期限を過ぎると、たとえ正当な請求であっても受け入れられる可能性が大幅に低下します。

まとめ

この記事では、令和元年より導入された「特別寄与料」について、その基本的な知識を解説しました。

特別寄与料は、被相続人に対する無償の特別な貢献をした者が、その努力と寄与を正当に評価されるための重要な制度です。請求できるのは特別寄与者であり、その計算方法は寄与の内容と範囲、被相続人の財産状況によって異なります。請求には当事者の合意または家庭裁判所への申し立てが必要であり、特定の期限内に行われる必要があります。

特別寄与料の請求は複雑なプロセスであり、適切なアドバイスを受けることが重要です。弁護士は、その豊富な経験と専門知識を持って、個別のケースに応じた適切なサポートを提供することが可能です。公平かつ公正な相続を実現し、家族間の不和を防ぐために、専門家の支援を利用することを強くお勧めします。

宮嶋太郎
代表パートナ弁護士
東京大学法学部在学中に司法試験合格。最高裁判所司法研修所にて司法修習(第58期)後、2005年弁護士登録。勤務弁護士を経験後、独立して弁護士法人ポートの前身となる法律事務所を設立。遺産相続・事業承継や企業間紛争の分野で数多くの事件を解決。

私たちが丁寧にわかりやすくお話します。

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