遺言書の探し方と発見後の対応

遺言書は、遺言者(被相続人)が生前に自分の財産等を相続においてどのように扱うかを定めた文書です。遺言書は、遺言者が単独でなすことのできる法律行為であり、その作成について相続人の関与を必要とするものではありません。

このため、遺言者が亡くなった時点で、遺言書の有無すら判らない場合や、遺言書があることを知っていてもその在処がわからないということがあるかと思います。

こうした場合、相続人はまず、自ら遺言書を探し、その有無や内容を確認する必要があります。また、遺言書を発見した後には、遺言の内容を前提とした適切な手続きを行う必要があります。そこで本記事では、遺言に関する相続実務を担当する弁護士が、遺言書の探し方と、発見後の対応について解説します。

遺言書の効力と遺言書の種類

遺言書は、遺言者が生前に、法律の定める形式に沿って、相続開始後の自己の財産の分配等について、その最終意思を明記する文書です。

遺言書の効力と重要性

遺言を作成した遺言者が亡くなると、遺言の効力が生じ、原則として遺言に記載された内容に沿って、遺言者の財産に関する権利が相続人や受遺者に移転します。このため、相続人にとって、遺言書は、自分が承継する権利義務の内容に直結するという意味で、相続手続きにおいて極めて重要な文書であるということができます。

遺言書の種類

遺言書には、法律に定められた一定の作成方式に応じて、いくつかの種類があります。大別すると「普通方式」と「特別方式」があり、それぞれに数種類の作成方法が規定されていますが、特に重要なのが、普通方式による遺言のうちの次の2種類です(実務的にはこの2種類がほとんどです)。

  1. 自筆証書遺言
  2. 公正証書遺言

そこで、以下ではこれら2種類の遺言書の探し方と発見後の対応について解説します。

遺言書の探し方

自筆証書遺言と公正証書遺言は、それぞれの遺言書の形式により、探し方も異なります。

遺言書を作成したかどうかも分からないようなケースでは、相続人としては、遺言者が異なる種類の遺言書を作成している可能性も考慮し、両方の遺言書を探してみることが重要です。

自筆証書遺言の探し方

自筆証書遺言は、遺言者が原則として全文を自筆で作成し、署名・押印をしたものです。自筆証書遺言については、証人が不要であるため、遺言者が遺言を作成したこと自体を誰にも知られずに作成することも可能です。

この形式の遺言書は、遺言者が自由に保管場所を選べるため、探し方は一概には決まりません。しかし、以下のポイントを頭に入れておくと、自筆証書遺言を発見できる可能性が高まるでしょう。

遺言者の身近な場所を探す

自筆証書遺言は、遺言者が自分で保管することが多いです。そのため、遺言者の自宅や職場、特に個人的な物を保管する場所(例えば、デスクの引き出しや金庫など)をまず探すことをおすすめします。自宅であれば、仏壇やクローゼット・タンスの中に保管されているという場合もあります。

また、保管の形態は「遺言書」等と記された封筒などに入れられていることが一般的ですが、中には、ノートや便箋に書き遺したものがそのまま保管されているというようなこともありますので、探索時には注意を払って探すことをおすすめします。

遺言者の親族や信頼できる人物に尋ねる

遺言者が自筆証書遺言を誰かに預けていた可能性もあります。遺言者の親族や信頼できる友人、顧問弁護士・税理士などに、自筆証書遺言の存在を尋ねてみるとよいでしょう。

遺言者が預けていた可能性のある貸金庫を探す

遺言者が財産を保管していた貸金庫に自筆証書遺言があるかもしれません。遺言者が銀行や信託会社に貸金庫を持っていた場合、その貸金庫を確認することをおすすめします。

もっとも、遺言者である被相続人が亡くなった後に貸金庫を開披するためには、原則として相続人全員の立会いが必要となります。

遺言書保管所(法務局)で探す

遺言書保管所は、法務局に設置されている自筆証書遺言の保管場所です。遺言者は自筆証書遺言を作成した後、法務局に提出し、保管してもらうことができます。法務局は、遺言者の死亡を確認した後、遺言書を保管していることを遺言者が指定した特定の相続人に通知します。

法務局からの通知を受けた場合や、通知がなくとも相続人や受遺者に該当する方は、遺言者が亡くなった後であれば、自ら遺言書保管所(法務局)に申請をすることによって、遺言書の有無やその内容についての証明書を発行してもらうことが可能です。

なお、詳しい手続きや必要書類は、以下のサイトをご覧ください。

公正証書遺言の探し方

公正証書遺言は、公証人が作成し、公証役場に原本が保管される遺言書の形式です。公正証書遺言については、コンピューターによる検索システムが整備されており、自筆証書遺言に比べ探索は容易です。

遺言情報管理システムによる検索

公正証書遺言の探し方は、日本公証人連合会の遺言情報管理システムを利用することが基本です。

日本公証人連合会は、全国の公証役場で平成元年以降に作成された公正証書遺言の情報を管理する遺言情報管理システムを運用しています。このシステムを利用することで、遺言公正証書の有無や保管公証役場を検索することができます。

相続人は、遺言者が死亡した後に限り、遺言情報管理システムによる遺言の検索が可能です。遺言検索の申出は、相続人等の利害関係人が公証役場に対して行います。申出の際には、遺言者が死亡した事実を証明する書類、遺言者の相続人であることを証明する戸籍謄本、申出人の本人確認の書類が必要となります。

なお、検索の結果発見された遺言公正証書の内容の確認するためには、必要書類を揃えて公正証書を作成した公証役場で謄本請求の手続をしてください。

遺言情報管理システムでは検索できない公正証書遺言もある

遺言情報管理システムは、平成元年以降に作成された公正証書遺言の情報を管理しています。このため、それ以前に作成された公正証書遺言については、データベースに情報が記録されておらず原本が公証役場に保管されていても情報検索でヒットしないということが考えられます。

また、極めて稀かとは思われますが、遺言情報管理システムに遺言に関するデータを入力する際の誤入力等が原因で、実際には遺言が存在したが検索にかからないという事案もあります。

こうしたケースでは、遺言者の自宅に保管されていた公正証書遺言の謄本(作成時に遺言者自身が交付を受たもの)やそのコピーなどが自宅等で発見され、それがきっかけで公正証書遺言の存在が判明するということもあります。

遺言書を発見した場合の対応

自筆証書遺言の場合は検認手続きを

自筆証書遺言を発見した場合、原則として、検認手続きの請求を行う必要があります。検認とは、遺言書の客観的な状態を裁判所が確認することで、その後の偽造や変造を防止するための証拠保全の手続きです(遺言書が法律の定める方式に適合しているかどうかや、遺言者に遺言能力があったかどうかなど、遺言の有効性に関する判断するための手続ではありません。)

(遺言書の検認)
第千四条 遺言書の保管者は、相続の開始を知った後、遅滞なく、これを家庭裁判所に提出して、その検認を請求しなければならない。遺言書の保管者がない場合において、相続人が遺言書を発見した後も、同様とする。
2 前項の規定は、公正証書による遺言については、適用しない。
3 封印のある遺言書は、家庭裁判所において相続人又はその代理人の立会いがなければ、開封することができない。

引用元:e-Gov法令検索

但し、遺言書の偽造や変造を防止するという検認手続きの目的から、偽造や変造の可能性が低い次の遺言については、検認手続が不要となります。

  1. 公正証書遺言(民法1004条2項)
  2. 遺言書保管所に保管されている自筆証書遺言(法務局における遺言書の保管等に関する法律11条)

遺言に基づく相続財産の承継手続き

遺言に基づく相続財産の承継手続きは、遺言書の内容に従って行われます。

遺言書には、不動産、預貯金、株式など、遺言者が所有していた財産の分配方法が記載されていることが一般的です。遺言書及び関係書類を揃えた上で、これらの財産について名義変更や解約手続きを行ってください。承継手続きを進めることについて、不安がある方は、専門家の助力を得てこれらの手続きを行うとよいでしょう。

なお、遺言書に遺言執行者が指定されている場合には、遺言執行者がこれらの手続きを行うこともあります。

遺産分割が必要となる場合も

遺言書があっても遺産分割協議が必要となる場合があります。

例えば、遺言書によって取得者が指定されていない財産がある場合や、相続人全員の合意で遺言書と異なる遺産の分配をする場合などが該当します。

まとめ

以上、遺言書の探し方と発見後の対応について解説しました。

遺言書により被相続人の最終意思を確認することは、相続において必要不可欠なステップとなります。自筆証書遺言と公正証書遺言、それぞれの探し方を理解し、適切に行動することで、遺言者の意志を尊重した、円滑な相続手続きを進めることが可能となります。

また、遺言書を発見した後の対応も重要です。自筆証書遺言の場合は検認手続きを忘れずに行いましょう。また、遺言書があっても遺産分割協議が必要となる場合もありますので、その点も理解しておくことが重要です。

遺言書の探し方や発見後の対応については、専門家の助けを借りることも一つの選択肢です。弁護士法人ポート法律事務所では、遺言書の調査や発見後の対応に関するご依頼もお受けしております。本記事をご覧いただき具体的なご依頼をお考えの方は、ぜひ当事務所にお問い合わせください。

宮嶋太郎
代表パートナ弁護士
東京大学法学部在学中に司法試験合格。最高裁判所司法研修所にて司法修習(第58期)後、2005年弁護士登録。勤務弁護士を経験後、独立して弁護士法人ポートの前身となる法律事務所を設立。遺産相続・事業承継や企業間紛争の分野で数多くの事件を解決。

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