遺留分侵害額の計算と遺言による取得者未指定の遺産

遺留分とは、一定範囲の相続人が、被相続人の意思(遺言等)にかかわらず、最低限受け取ることを保障された相続財産のことを指します。遺留分を侵害する遺言や贈与が存する場合、遺留分権利者は、遺留分侵害額請求権に基づき、受遺者や受贈者に対して侵害された遺留分に相当する金員を請求することができます。

もっとも、個別の事案において遺留分侵害額をいくらと算定すべきかという点には、複雑な問題が含まれることがあります。特に、被相続人の遺言が全ての遺産をカバーしておらず、相続開始後も誰が取得するか未指定となっている財産が残っている場合には、遺留分侵害額の算定において混乱が生ずることが少なくありません。

そこで、本記事では、相続実務を常時取扱う弁護士が、遺留分侵害額の計算と、遺言による取得者未指定財産の関係について解説します。

遺留分侵害額計算の計算

遺留分侵害額の計算の概要

遺留分侵害額の計算は、次の2段階で計算します。

  1. 特定の相続人に認められる遺留分の金額はいくらか(第1段階)
  2. その相続人の遺留分がどの程度「侵害」されているか(第2段階)

遺留分「侵害額」の計算方法

第1段階である遺留分それ自体の計算方法については上記関連記事をご参照いただくこととして、ここでは第2段階である遺留分「侵害額」の計算方法を説明します。

遺留分「侵害額」の計算は、民法1046条により、次のように計算するものとされています。

(遺留分侵害額の請求)
第千四十六条 遺留分権利者及びその承継人は、受遺者(特定財産承継遺言により財産を承継し又は相続分の指定を受けた相続人を含む。以下この章において同じ。)又は受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる。
2 遺留分侵害額は、第千四十二条の規定による遺留分から第一号及び第二号に掲げる額を控除し、これに第三号に掲げる額を加算して算定する。
一 遺留分権利者が受けた遺贈又は第九百三条第一項に規定する贈与の価額
二 第九百条から第九百二条まで、第九百三条及び第九百四条の規定により算定した相続分に応じて遺留分権利者が取得すべき遺産の価額
三 被相続人が相続開始の時において有した債務のうち、第八百九十九条の規定により遺留分権利者が承継する債務(次条第三項において「遺留分権利者承継債務」という。)の額

引用元:e-Gov法令検索

つまり、1046条2項によれば、遺留分侵害額は、

  • ⅰ 遺留分権利者の遺留分額から、
  • ⅱ 遺留分権利者が受けた遺贈または特別受益の価額を控除
  • ⅲ 遺留分権利者が相続により取得する財産の価額を控除
  • ⅳ 遺留分権利者が承継する相続債務の額を加算

して計算するとされています。

数式でいえば「ⅰ-ⅱ-ⅲ+ⅳ」ですが、本記事との関係で問題となるのは上記のうちⅲの要素です。

遺言による取得者未指定の遺産とは

遺言による取得者未指定の遺産とは、遺言によりその取得者が明確に指定されていない遺産のことを指します。遺言者が遺言を作成する際、すべての財産について具体的な取得者を指定することが多いと考えられますが、例えば次のような場合には、具体的な取得者が指定されていない遺産が発生します。

  1. 遺言者が遺言を作成する際に、特定の財産の存在を忘れていた場合
  2. 遺言書作成後に遺言者が新たに財産を取得した場合
  3. 遺言書で遺贈の対象とされていた財産の受遺者が遺言者より先に死亡していた場合

このようなケースは、自筆証書遺言の事案などでは特段珍しくありません。取得者未指定の遺産が発生することとなる場合、当該遺産については、法定相続のルールにしたがっていったん共同相続人の共有となり、その後遺産分割を経て最終的な取得者が決まります。

なお、一見、遺言では取得者が指定されていないようにみえる場合でも、「その他一切の財産を●●に相続させる」などの包括的な財産取得条項が記載されている遺言については、これによって取得者が指定されていると解釈できる場合が多いでしょう。

民法1046条2項2号と取得者未指定の遺産

前述のとおり、民法1046条2項には遺留分侵害額の計算方法が規定されています。

そして、この計算上、遺言により取得者が指定されていない遺産については、同項2号により、遺留分権利者がその遺産つき「第九百条から第九百二条まで、第九百三条及び第九百四条の規定により算定した相続分に応じた」権利を取得したものとみなして、その価額を遺留分額から控除することになります。

つまり、遺言により取得者が指定されていない未分割財産が存する場合、当該財産に対して遺留分権利者が有する権利の価額を遺留分から控除して侵害額を求めることになります(言い換えれば、取得者未指定財産の存在は、遺留分侵害額自体は減少する要因となるということもできます)。

なお、単純な法定相続分での取得ではなく、特別受益(民法903条及び民法904条)を考慮して修正された相続分に応じた取得を前提とする点には注意を要します。

具体例

次のような具体例を考えてみましょう。

Aさん(被相続人)が亡くなり、子であるBさんとCさんの法定相続分はそれぞれ1/2です。Cさんは特別受益となる生前贈与を受けており、これを考慮した具体的相続分はBさんが2/3、Cさんが1/3です。

また、Bさんの遺留分額は1000万円です。

Aさんの遺言によると、甲土地(600万円相当)は取得者の指定がされておらず(未分割財産)、その他の遺産は受遺者Dさんに遺贈するものとされています。なお、Bさんへの生前贈与や相続債務はないものとします。

このとき、Bさんの遺留分侵害額はどうなるでしょうか。

この場合、取得者が未指定となっている甲土地(600万円)に対する2/3(特別受益を考慮した具体的相続分)である400万円相当をBさんが取得したものと仮定し、これをB さんの遺留分額1000万円から控除することで、Bさんの遺留分侵害額を計算します。このため、遺留分侵害額は次の通り計算されます。

Bさんの遺留分侵害額

= 遺留分額 - 取得者未指定財産の価額(Bさんの具体的相続分に対応する部分)
= 1000万円 - 600万円×2/3
= 600万円

以上のように、遺言による取得者未指定の財産は、遺留分侵害額の計算において遺留分権利者が取得する財産の価額として控除され、遺留分侵害額が算出されます。

まとめ

以上、遺留分侵害額の計算における取得者未指定財産(未分割財産)の取り扱いについて解説しました。

遺言が被相続人のすべての財産をカバーしていないという事案は意外に多く、そうしたケースでは遺留分侵害額の計算は複雑になりがちです。理解の深まりと円滑な相続手続きの実現に向けて、この記事が皆様のお役に立てればと思います。

そして、さらに具体的な問題解決を求める皆様へ。当事務所はあなたの相続問題解決を全力でサポートいたします。交渉から訴訟の代理まで、相続に関する問題解決は、ぜひ一度当事務所へご相談ください。皆様からのお問い合わせを心よりお待ちしております。

宮嶋太郎
代表パートナ弁護士
東京大学法学部在学中に司法試験合格。最高裁判所司法研修所にて司法修習(第58期)後、2005年弁護士登録。勤務弁護士を経験後、独立して弁護士法人ポートの前身となる法律事務所を設立。遺産相続・事業承継や企業間紛争の分野で数多くの事件を解決。

私たちが丁寧にわかりやすくお話します。

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