相続放棄と代襲相続
今回は、相続放棄と代襲相続の関係について解説します。相続放棄と代襲相続の関係についてWEBを検索すると、
- 「相続放棄すると代襲相続は発生しない!」
- 「相続放棄しても代襲相続できる!」
といった、一見すると相反するように思われる説明の記事がみつかるかもしれません。しかし、実は、これらの説明は、相続放棄と代襲相続が問題になる次の2つの質問について回答したものとすれば、いずれも正しい説明となります。
- 質問1:ある被相続人の相続について相続放棄をした人の子は、当該相続において代襲相続人となるか
- 質問2:ある被相続人の相続について相続放棄をした人は、その後、当該被相続人の親の相続において代襲相続人となるか
おそらく、これだけでは混乱する方も多いのではないでしょうか。そこで、今回の記事では、まずは相続放棄と代襲相続とはどのような制度かを押さえた上で、二つの具体的な相談例に即した解説をしたいと思います。
相続放棄とは
相続放棄とは、相続人が家庭裁判所に申し出ることにより、特定の被相続人の相続についての相続権を一切放棄するという制度です。
(相続の放棄の方式)
第九百三十八条 相続の放棄をしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。
(相続の放棄の効力)
第九百三十九条 相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。
引用元:e-Gov法令検索
相続放棄を行うことによって、被相続人に借金や保証債務のような消極的な相続財産がある場合でも、相続人がこれを引き継ぐことを回避できます。その反面、相続放棄をした人は、その相続に関しては、当初から相続人ではなかったものとみなされるため、相続人の自宅や預貯金など積極的な相続財産を引き継ぐこともできません。
代襲相続とは
代襲相続とは、被相続人の相続開始時に、本来の相続人となるはずであった人が一定の理由(代襲原因)により相続人とならない場合に、その人の子が相続人となる制度です。被相続人が亡くなった時点で、本来は相続人となるはずであった子が先に死亡していたため、孫が代襲相続となるような事例が典型的な代襲相続のパターンです。この事例でいうと、
- 被代襲者:先に死亡していた被相続人の子
- 代襲者(代襲相続人):被相続人の孫
- 代襲原因:被代襲者の死亡
ということになります。
(子及びその代襲者等の相続権)
第八百八十七条 被相続人の子は、相続人となる。
2 被相続人の子が、相続の開始以前に死亡したとき、又は第八百九十一条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その相続権を失ったときは、その者の子がこれを代襲して相続人となる。ただし、被相続人の直系卑属でない者は、この限りでない。
3 前項の規定は、代襲者が、相続の開始以前に死亡し、又は第八百九十一条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その代襲相続権を失った場合について準用する。
(直系尊属及び兄弟姉妹の相続権)
第八百八十九条 次に掲げる者は、第八百八十七条の規定により相続人となるべき者がない場合には、次に掲げる順序の順位に従って相続人となる。
一 被相続人の直系尊属。ただし、親等の異なる者の間では、その近い者を先にする。
二 被相続人の兄弟姉妹
2 第八百八十七条第二項の規定は、前項第二号の場合について準用する。
引用元:e-Gov法令検索
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相談例1:B→Aの順で死亡。DがBの相続を放棄
まずは最初の相談例です。
先日亡くなった祖父(A)の遺産相続のことで相談させてください。被相続人である祖父には、子である父(B)と叔母(C)がいましたが、父は、5年前に亡くなりました。父には多額の借金あったため、私(D)は父の相続につき相続放棄をしたのですが、今回、私は祖父の相続人となれるのでしょうか。
問題は、Bの相続における相続放棄は代襲相続の妨げとなるか
相談内容の要点をまとめると、
- 被相続人の子である相談者(D)の父(B)が5年前に死亡
- その際、DがBの相続において相続放棄をした
- 今回、相談者の祖父(A)が死亡
- 相談者(D)はAの相続において、代襲相続人となれるのか?
ということになりそうです。
今回のケースでは、Aの子であるBが、Aよりも先に死亡しています。したがって、通常の事案であれば、Bの子であるDについては、代襲相続によりAの相続人となることができそうです。
では、DがBの相続について5年前に相続放棄をしたことが何か影響するでしょうか。
相続放棄の効力
この点については、相続放棄の効力について定めた次の規定を確認してみましょう。
(相続の放棄の効力)
第九百三十九条 相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。
引用元:e-Gov法令検索
これによれば、相続放棄をした者(D)は、その相続(Bの相続)に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなされます。
しかし、上記の規定をよく見ればわかるとおり、相続放棄をした者は、あくまで「その相続に関して」、相続人とならなかったものとみなされるだけです。ここで大事なことは、相続放棄をした者と、当該相続人との間の親子関係までもが失われるわけではないということです。
そして、民法887条第2項は、代襲者の要件として、死亡した被代襲者の子(かつ被相続人の直系卑属)であること求めてはいますが、「被代襲者の相続人」であることまでは求めていません。
したがって、上記の相談例では、Dが父Bの相続放棄をしていたという事情は、Aの相続において代襲相続を妨げる要因とはなりません。
つまり、DはAの相続において代襲相続人となることができます。
相談例2:Aが死亡し、Bが相続放棄。DはAの代襲相続人となるか。
次の相談例です。
先日亡くなった祖父(A)の遺産相続のことで相談させてください。被相続人である祖父には、子である父(B)と叔母(C)がおりますが、父は、祖父に借金があることを理由に相続放棄をしました。今回、私(D)は祖父の相続人となれるのでしょうか。
こちらの相談は、
- 祖父Aが死亡
- 父Bが祖父Aの相続において相続放棄
- 相談者Dは相続放棄した父Bの子として被相続人Aの代襲相続人となれるか?
との内容です。こちらは要するに、「ある被相続人について相続放棄した人の子は、当該被相続人の相続において代襲相続人となれるか」という問題です。
民法が定める代襲相続の発生理由(代襲原因)
代襲相続が発生する原因は、民法887条が規定するとおり、次の3つです。
1:相続開始以前の被代襲者の死亡
被相続人の死亡以前に被代襲者が死亡していたことです。同時死亡の場合も代襲原因となります。
2:被代襲者の相続欠格事由
被代襲者に民法891条の相続欠格事由が認められることです。被相続人を殺害して刑に処せられた場合や、詐欺や強迫により遺言を作成させた場合などがあります。相続開始前後を問いません。
3:被代襲者が廃除の審判を受けたこと
被代襲者が被相続人の子である場合には、被相続人が廃除の審判を受けたことが代襲原因とされます。
以上からわかるように、相続放棄は代襲相続の発生原因には含まれていません。したがって、ある被相続人の相続において相続放棄をした人の子は、当該相続手続きにおいて新たに代襲相続人となることはありません。
したがって、こちらの相談例においては、DがAの代襲相続人となることはなく、叔母CがA を単独で相続するという結果となります。
まとめ
本記事では相続放棄と代襲相続との関係について具体例に即して解説をしました。
- 相続放棄は、あくまで申述手続きを行った特定の相続に関してだけ、当初から相続人でなかったとみなされる制度であること
- 代襲相続は、被代襲者の死亡・相続結果・廃除の審判のいずれかを理由として発生するが、相続放棄を理由としては発生しないこと
以上の2点を理解していただくことが重要です。