限定承認とは何か?メリット・デメリットや手続の流れについて基本を解説

限定承認は、単純承認及び相続放棄と並ぶ相続方式のうちのひとつです。実務上、限定承認が行われるケースは多くありませんが、限定承認もその使い方によっては有用な制度となり得ます。このページでは、弁護士が限定承認の制度の基本的事項について解説します。

限定承認とは

限定承認とは、相続によって得た財産の限度においてのみ、被相続人の債務及び遺贈を弁済するとの留保を付けた相続の承認です。

単純承認や相続放棄との違いは

限定承認と並ぶ相続の方式としては、単純承認相続放棄があります。相続放棄は被相続人の権利義務を一切承継しない制度、単純承認は被相続人の権利義務を全面的に承継する制度であるのに対し、限定承認は積極の相続財産で弁済可能な限度で消極財産を承継する制度であり、両者の中間的な位置づけということができます

限定承認の方式

限定承認の申述には期限があります

限定承認をするには、相続人が、家庭裁判所に対し、相続財産の目録を作成して提出し、限定承認する旨を申述しなければなりません。また、この申述は、民法915条1項の定める熟慮期間内に行う必要があり、これは相続人が自己のために相続があったことを知った時から3ヶ月以内とされています。

第九百二十四条(限定承認の方式)
  • 相続人は、限定承認をしようとするときは、第九百十五条第一項の期間内に、相続財産の目録を作成して家庭裁判所に提出し、限定承認をする旨を申述しなければならない。

家庭裁判所への申述は相続人全員で

しかも、限定承認は、相続人が数人ある場合には共同相続人の全員が共同で行うときのみ認められるとされています。つまり、共同相続人の足並みが揃わない限り、限定承認を行うことはできません。

第九百二十三条 (共同相続人の限定承認)
  • 相続人が数人あるときは、限定承認は、共同相続人の全員が共同してのみこれをすることができる。

限定承認のメリットとデメリット

限定承認のメリット

■責任財産の限定

限定承認をした場合、相続人は、借金などの消極財産が積極財産を上回る場合であっても、あくまで積極財産の範囲内でのみ弁済の責任を負担し、積極財産を超過する範囲の弁済の責任は負担しません。他方、仮に、積極財産が消極財産を上回った場合には、積極財産から消極財産を控除した部分につき、相続することができます。

したがって、限定承認は、積極財産と消極財産の多寡が判然としない場合に有効な手続きといえます。

■先買権の行使

限定承認手続きでは、被相続人が所有していた財産について、鑑定人の評価を得た上で、相続人が先買権を行使することができます。

このため、例えば、債務超過は明らかであるがどうしても手放したくない自宅不動産があるような場合には、相続人が自宅の買取資金を調達してこれを確実に取得するために限定承認手続を利用することが有効なことがあります。

限定承認のデメリット

限定承認は、後に述べるとおり、複雑な手続きを経る必要がありますので、単純承認や相続放棄と比較すると手続き的負担は大きくなります

また、限定承認をすると、所得税法上、被相続人が相続開始の時点ですべての財産を時価で売却したものとみなされ、その結果、含み益が生じる場合には譲渡所得税が課税されます(但し、被相続人の相続の限度で納付の責任が発生するだけです。)。相続放棄の場合はもちろん、単純承認の場合には、それのみで譲渡所得税が発生することにはなりませんので、この点はデメリットといえるでしょう。

どんな相続で活用できる?

限定承認は、遺産の全体像が不明確で、その清算価値がプラスかマイナスかが確定できない場合に効果を発揮します。例えば、

  1. 生前の被相続人との関係が疎遠で、今後も隠れた負債が発覚する可能性がある
  2. 被相続人が多額の請求を受けた裁判を抱えたまま亡くなった 

など、相続財産を構成する資産と負債の全体的なバランスを把握するのが難しい場合に、この手続きを利用することが有効となります。この方法により、相続人は未知の負債によるリスクヘッジをしつつ、相続の承認を行うことができます。

限定承認の手続きの流れ

限定承認の手続きの流れは、概ね、以下のとおりとなります。

1 限定承認の申述

相続人が、相続開始があったことを知った日から3か月以内に、相続財産の目録を作成して家庭裁判所に提出し、限定承認をする旨を申述します。相続財産の目録は完璧である必要はなく、その時点で判明しているプラスの財産及びマイナスの財産を記載すれば足ります。

なお、限定承認の申述は、相続放棄をした者を除き、相続人全員で行う必要があります。そのため、相続人の内の1人が単純承認をした場合には、限定承認をすることはできません。

2 限定承認申述受理の審判

家庭裁判所は、限定承認の申述を受理すると、限定承認申述受理の審判をします。これにより、以後、法定の手順に従い、相続債権者や受遺者への弁済手続きが行われます。

限定承認を申述した相続人が1人の場合はその者が、限定承認を申述した相続人が複数である場合には、家庭裁判所が選任した相続財産管理人(限定承認者のうちの一人が選任されるのが一般的です)が、それぞれ相続財産の管理及び債務の清算手続きを行うことになります。

3 相続債権者及び受遺者に対する公告及び催告

限定承認をした相続人は、限定承認の申述が受理された日から5日以内に、すべての相続債権者及び受遺者に対し、限定承認をしたこと及び一定の期間内(最低2か月以上となります)に、債権の届出をするべき旨を、官報にて公告します。なお、相続財産管理人が選任された場合は、相続財産管理人が、その選任があった日から10日以内に上記公告及び催告をします。

参考:官報公告の申込み(外部サイト)

また、限定承認者(相続財産管理人)は、自身が把握している相続債権者及び受遺者に対しては、上記期間内に、個別に上記の内容につき、催告をしなければなりません。

4 弁済のための相続財産の換価

限定承認者または相続財産管理人は、相続債権者及び受遺者に対する弁済をするために、相続財産を換価します。相続債務弁済のため、相続不動産を売却する必要があるときは、原則としてこれを競売に付するものとされています。ただし、裁判所の選任する鑑定人による評価額を支払って、限定承認者がこれを優先的に買い受けることもできます(先買権)。

(弁済のための相続財産の換価)
第九百三十二条 前三条の規定に従って弁済をするにつき相続財産を売却する必要があるときは、限定承認者は、これを競売に付さなければならない。ただし、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従い相続財産の全部又は一部の価額を弁済して、その競売を止めることができる。

引用元:e-Gov法令検索

5 相続債権者に対する弁済

限定承認者(相続財産管理人)は、相続財産の換価後、債権届出をした相続債権者及び限定承認者が把握している相続債権者に対し、各債権者の債権額の割合に応じて弁済を行います。

6 受遺者に対する弁済

限定承認者(相続財産管理人)は、相続債権者に対する弁済終了後、なおも相続財産に余剰がある場合には、債権届出をした受遺者及び限定承認者が把握している受遺者に対して弁済します。

7 債権の申出をしなかった相続債権者及び受遺者に対する弁済

公告した債権届出期間内に債権の届出をせず、かつ、限定承認者(相続財産管理人)に知れなかった相続債権者及び受遺者は、上記弁済後もなお残余財産がある場合には、その権利を行使することができます。そのため、この場合には、限定承認者は、これらの相続債権者及び受遺者に対して弁済します。

8 限定承認者に対する配当

上記弁済後もなお残余財産がある場合には、限定承認をした相続人が配当を受けることになります。

まとめ

限定承認は、相続財産が含む未知の負債リスクを回避するための手段ですが、相続人全員での申述が必要であり、手続きが複雑であるため、現状では頻繁には用いられていません。司法統計によれば、近時でも年間で1000件未満の事例に留まっています。

しかし、現代の核家族社会では、子どもたちが親の財産状況を完全に把握していないケースが増加しており、このような状況では限定承認の重要性が高まっています。未知の負債に対するリスクを避けつつ、財産を適切に受け継ぐために、限定承認は今後さらに注目される制度となるでしょう。

弁護士法人ポートでは、限定承認に関する申述や手続きの支援を提供した実績を有しております。この複雑なプロセスを理解し、適切に対処するためには専門的な知見が不可欠です。限定承認の制度に関して疑問や支援が必要な場合、当事務所の遺産相続に関する無料法律相談をご活用いただければ、詳細なアドバイスとサポートを提供いたします。

宮嶋太郎
代表パートナ弁護士
東京大学法学部在学中に司法試験合格。最高裁判所司法研修所にて司法修習(第58期)後、2005年弁護士登録。勤務弁護士を経験後、独立して弁護士法人ポートの前身となる法律事務所を設立。遺産相続・事業承継や企業間紛争の分野で数多くの事件を解決。

私たちが丁寧にわかりやすくお話します。

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