遺産分割に期限はある?長期間遺産分割を放置するデメリットを解説

  1. 誰も遺産分割の話を言い出さない
  2. 協議したが意見がまとまらず放置
  3. 遺産の存在に気づいていない
  4. 他の相続人と連絡が取れない・取りたくない
  5. 未成年者の相続人と親権者が利益相反
  6. 認知症の相続人がいる

以上のような様々な理由から、被相続人の死後何年も、遺産分割協議が成立しないまま放置されている事案は少なくありません。しかし、長期間にわたり遺産分割を放置しておくことは、共同相続人にとって少なからぬデメリットが発生することがあります。

そこで、本記事では、2023年4月から施行される2021年の民法改正も踏まえ、長期間遺産分割をしないことのデメリットについて弁護士が解説します。

遺産分割を一定期限までに成立させる法律上の義務はない

遺産相続の相談では、「遺産分割は、いつまでに成立させる義務がありますか」とのご質問を多く受けます。

しかし、民法907条1項は、共同相続人は(相続人が遺言で遺産分割を禁じた場合を除いて)いつでも遺産分割協議ができることを定めてはいるものの、法律上の義務として、相続人が遺産分割を必ず行わなくてはならない期限を定めてはいません

(遺産の分割の協議又は審判等)
第九百七条 共同相続人は、次条の規定により被相続人が遺言で禁じた場合を除き、いつでも、その協議で、遺産の全部又は一部の分割をすることができる。

言いかえれば、遺産分割はいつまでも放置しておくことが許されるということになります。

ところが、遺産分割を長期間にわたり未了のまま放置しておくと、共同相続人の一部または全員に、一定のデメリットが発生することがあります。以下、具体的にどのようなデメリットが発生するかを解説します。

特別受益や寄与分の主張が制限されることがある(相続開始から10年経過後の遺産分割)

2021年4月、いわゆる所有者不明土地問題の解消を目的として、民法の一部改正等が行われ、以下のような内容の民法904条の3が新設されました。

(期間経過後の遺産の分割における相続分)

第九百四条の三
前三条の規定は、相続開始の時から10年を経過した後にする遺産の分割については、適用しない。ただし、次の各号のいずれかに該当するときは、この限りでない。

  • 一 相続開始の時から10年を経過する前に、相続人が家庭裁判所に遺産の分割の請求をしたとき。
  • 二 相続開始の時から始まる10年の期間の満了前6箇月以内の間に、遺産の分割を請求することができないやむを得ない事由が相続人にあった場合において、その事由が消滅した時から6箇月を経過する前に、当該相続人が家庭裁判所に遺産の分割の請求をしたとき。

上記の規定によれば、相続開始から10年を経過した後にする遺産分割については、原則として、共同相続人は特別受益寄与分の主張をすることが認められず、法定相続分による遺産分割をするものとされました。

特別受益や寄与分に関する争点は、遺産分割の成立を遅延させることが多いため、相続開始後長期間放置された遺産分割については、法定相続分よる分配割合を修正する理由となり得る特別受益や寄与分の主張を封じ、早期の遺産分割成立を促す目的と考えられます。

このような主張制限は、自分以外の共同相続人が過去に得た特別受益を主張したい相続人や、自分の寄与分を主張したい相続人にとっては、大きな不利益となる可能性があります。例えば、先に死亡した父の遺産については分割協議を棚上げし、母が亡くなったあとに母の遺産とまとめて分割協議をしようと考えていたが、分割協議をしないまま10年以上が経過していたなどというケースでは注意が必要でしょう。

なお、同改正法は、2023年4月1日から施行されますが、それ以前に被相続人が死亡し相続が開始した事案についても適用されるものとされています(但し、相続開始日が2013年4月1日より前の事案については、相続開始から10年経過または2028年4月1日のいずれか遅い方までの遺産分割については、特別受益及び寄与分の主張制限が猶予されます。)。

不動産の処分や有効活用に支障が生ずることがある

遺産の中に土地や建物といった不動産が含まれている場合、遺産分割をしないとその処分や有効活用が困難になってしまうというデメリットがあります。

すなわち、遺産分割をしないと相続不動産は相続人の遺産共有状態のままとなります。このため、相続人が相続不動産の全体を単独で売却することはできません。もちろん、相続人は、持分だけであれば単独で売却することができますが、持分のみの売却は流通性が低く、買い手がつかないか、買い手がいても低額での売却を余儀なくされる傾向にあります。

また、共有状態のままでは、他の相続人の同意がないと、相続不動産の建て替えはもちろん、これを長期の賃貸に出すこともできません(民法251条にいう変更行為にあたる場合)。

数次相続でさらに複雑に

次に、遺産分割をしない間に数次相続が発生することによって相続人の数が増え、遺産分割が困難になるというリスクも発生します。数次相続とは、遺産分割協議を行わないうちに相続人が死亡し、次の相続が発生してしまうことを言います。

数次相続が発生することにより、相続人の数が増えてしまいます。例えば、相続人が6人いる被相続人が死亡し、被相続人の遺産について遺産分割を行わないままでいたケースを考えてみます。その後相続人が全員死亡し、それらの相続人がそれぞれ3名いたという事例の場合、被相続人の相続人の数は3×6=18人にも及びます。

この場合、被相続人の遺産について相続持分を有する18名の相続人で遺産分割を行う必要があるのですが、多数人による遺産分割であることから、遺産分割がさらに難航する可能性が高いです。弁護士に依頼するにしても、費用が高額になりがちです。

税務面で不利益が生ずることがある

遺産分割協議をしない場合、税務面でのデメリットもいくつか生じます。例えば、小規模宅地等の特例や配偶者の相続税税額控除の問題があります。前者は、被相続人の自宅などに供されていた宅地等について、一定の条件のもとに相続税課税価格を減ずるという制度であり、後者は、配偶者について一定範囲で相続税の減免を可能とする制度です。

相続税の基礎控除額が減少したことなどもあり、利用頻度の増加しているこれらの制度ですが、その適用を受けるためには、原則として、相続税の申告期限内(被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内)に遺産分割が成立していることが必要となります(なお、期限後3年以内の分割見込書を提出することで、例外的に、申告期限後に同制度の適用を受けられる場合はあります。しかしそれでも期限後3年が経過してしまうと、調停中や審判中などのやむを得ない事情がない限り、こうした例外措置も難しくなります。)。

また、物納制度や、非上場株式の相続がある場合における同株式に関する相続税の納税猶予の制度の利用については、申告期限内の遺産分割が必要です。

放置された遺産分割をまとめるには

遺産分割に関するトラブルは、相続人同士の対立や疎遠化を招きがちであり、問題解決に消極的になってしまう当事者の方も少なくありません。

しかし、以上に説明したとおり、遺産分割を未了のまま放置しておくことには、少なからぬデメリットがあります。この意味で、相続人としては、遺産分割をなるべく早期に成立させておくことが有益といえるでしょう。

もちろん、遺産分割が進まないケースでは、前記のように様々な原因・理由があることも確かです。しかし、弁護士に相談し、法的な手続きを活用することによって、遺産分割を遅延させる原因を除去できることもあります

意見が対立している場合であれば遺産分割調停や審判を利用することができますし、他の相続人との連絡に問題があれば弁護士が相続人の所在調査や連絡交渉の代行をすることもできます。また、特別代理人の選任や成年後見制度を利用することで、未成年相続人の利益相反や認知症の相続人の問題を解決することも可能です。

弁護士法人ポート法律事務所には、遺産分割に関するトラブルに対応することができる専門家が揃っています。当事務所は、豊富な知見と経験をもとに、遺産分割問題に対して、迅速かつ適切な対応をおこなってまいります。遺産分割に関する問題でお悩みの場合は、お気軽に当事務所にご相談・ご依頼ください。

宮嶋太郎
代表パートナ弁護士
東京大学法学部在学中に司法試験合格。最高裁判所司法研修所にて司法修習(第58期)後、2005年弁護士登録。勤務弁護士を経験後、独立して弁護士法人ポートの前身となる法律事務所を設立。遺産相続・事業承継や企業間紛争の分野で数多くの事件を解決。

私たちが丁寧にわかりやすくお話します。

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