交渉・調停・訴訟?遺留分侵害額請求事件が解決するまでの流れ

post35.png

遺留分とは、法律で定められた、相続人が最低限受け取るべき遺産に対する取り分のことです。特定の相続人に偏った内容の遺言が見つかり、自己の遺留分の侵害があることが判明した場合、遺留分権利者は、遺留分侵害額請求を行うことによって自己の権利を実現することになります。

しかし、請求の相手方が、金額を争ったり、理由もなく話し合い自体を拒否したらどうすればよいでしょうか。

多くの方にとって、遺留分侵害額請求のような法的な権利行使をする機会は滅多にあることではありません。遺留分に関する事件が、実際に、どのような「プロセス」を経て解決に至るのか、ご存じない方も多いのではないでしょうか。

そこで、この記事では、遺留分権利者の視点からみた遺留分侵害額請求事件解決までの一般的な「手続きの流れ」について、数多くの遺留分事件を取り扱う弁護士が、その経験を交えて解説します。

遺留分侵害額請求通知書の送付

遺留分侵害額請求事件では、遺留分権利者が侵害額請求権を行使して初めて、被相続人から遺贈や生前贈与を受けた遺留分義務者に対する金銭債権が発生が発生することになります。

そこで、まずは遺留分侵害額請求の相手方に対して、遺留分侵害額請求を行使するとの意思表示を通知します。なお、遺留分侵害額請求権の行使には期間制限(消滅時効や除斥期間)がありますのでご注意下さい。

遺留分侵害額請求通知書の作成方法

遺留分侵害額請求通知書については、相手方に対し遺留分侵害額に相当する金銭の支払を求めると言う意思が明確になっていればよく、法律上、特に決まった要式は要求されていません。もっとも、遺留分侵害額請求権が消滅時効完成前に行使されたことを明確にしておくため、配達証明付の内容証明郵便の形式で通知書を送付し、これを通知の証拠としておくことが一般的です。

通知書には、被通知人に対し支払いを求める具体的金額を記載することも当然可能ですが、消滅時効との関係で具体的な侵害額の調査未了の状態で通知を送付せざる得ない時などには、単に、遺留分侵害額請求をする旨のみを記載するというケースもあります。

遺留分侵害額請求通知の相手方

遺留分侵害額請求通知の相手方具体的に誰にすればよいでしょうか。この点、民法では、遺贈と贈与がある場合には、まず遺贈の受遺者に先に請求すべきなど、遺留分侵害額の負担者に関する詳細なルールが定められています。

関連記事:誰が支払いを負担する?遺留分侵害額請求の相手方・請求先

遺留分権利者は、上記のルールに沿って遺留分侵害額請求をなすべき相手方を特定し、正しい請求先に遺留分侵害額請求を行わなければなりません。もしこのルールに反して、誤った請求先に遺留分侵害額請求をした場合、当該請求先に対して金銭を請求できないばかりか、消滅時効により本来の請求先に対して金銭を請求する権利も失ってしまう可能性もありますので注意が必要です。

arrow.png

裁判外での交渉による解決

遺留分侵害額請求通知の送付後、まずは裁判外において、遺留分権利者と相手方との間で交渉をするのが通常の解決の流れとなります。

侵害額請求の相手方が遺留分権利者の主張を認め、支払金額や時期などの解決条件についても協議がまとまった場合には、双方で解決に関する合意書を作成し、相手方がその履行をすることで事件は解決となります。

もっとも、遺留分侵害額請求事件では、遺留分を算定するための財産の範囲やその評価などの点で争いになるケースが多く、この段階で話がまとまらないというケースも少なくありません。

arrow.png

家庭裁判所における家事調停による解決

遺留分侵害額調停を申し立てるのが原則(調停前置主義)

裁判外での交渉が上手くいかなかった場合は、裁判所の手続を利用して遺留分侵害額請求の問題解決を図ることになります。

遺留分に関する事件は、家事事件手続法において家事調停の対象とされる「家庭に関する事件」となります。このため、遺留分権利者は、遺留分侵害額請求訴訟を提起する前に、家庭裁判所に対して家事調停を申し立てる必要があり、家事調停を申し立てずにいきなり訴訟を提起した場合、裁判所は職権で事件を家事調停に付さなければならないとされています。これを、調停前置主義といいます。

もっとも、調停前置主義にも例外が定められており、調停を申し立てることなくいきなり訴訟(裁判)を提起したとしても、裁判所が事件を調停に付することが相当でないと認めるときはそのまま訴訟での審理を始めるこも可能とされています。現実には、当事者間による任意交渉の段階での対立が激しく、調停による解決の見込みがないという事案などでは、この例外に当たると考えた上で調停を避け、直接訴訟を提起するというケースも少なくありません。

家事事件手続法
第二百五十七条 第二百四十四条の規定により調停を行うことができる事件について訴えを提起しようとする者は、まず家庭裁判所に家事調停の申立てをしなければならない。
2 前項の事件について家事調停の申立てをすることなく訴えを提起した場合には、裁判所は、職権で、事件を家事調停に付さなければならない。ただし、裁判所が事件を調停に付することが相当でないと認めるときは、この限りでない。
3 裁判所は、前項の規定により事件を調停に付する場合においては、事件を管轄権を有する家庭裁判所に処理させなければならない。ただし、家事調停事件を処理するために特に必要があると認めるときは、事件を管轄権を有する家庭裁判所以外の家庭裁判所に処理させることができる。

引用元:e-Gov法令検索

相手方の住所地を管轄する家庭裁判所に調停申立書を提出

遺留分権利者は、家庭裁判所に対し、遺留分侵害額請求調停(裁判所の外部サイトにリンクします)の申立書を提出することによって調停を申し立てます。申立はどの家庭裁判所でもよいというわけではなく、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てをすることが原則です(当事者の合意がある場合には合意で取り決めた家庭裁判所も可)。

裁判所を介して話し合いを進め、まとまれば調停調書を作成

調停の席では、裁判所の調停委員が当事者を仲介して協議を進め、事件解決のために必要な調整を行ってくれます。その結果、話し合いがまとまれば、交渉段階における合意書の代わりに調停調書が作成され、これに基づく義務の履行(遺留分侵害額に相当する金銭の支払い)を受けることで、紛争の解決となります。

arrow.png

遺留分侵害額請求訴訟(裁判)による解決

家庭裁判所での調停が成立しなかった場合は、遺留分権利者が原告となり、受遺者や受贈者を被告として、遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを求める訴訟を提起し、裁判手続きでの解決を図ります。訴訟の提起先は、家事調停を行っていた家庭裁判所ではなく、次の場所を管轄する地方裁判所(訴額が140万円以内であれば簡易裁判所)となるため注意が必要です。

  1. 被告の住所地
  2. 被相続人の最後の住所地
  3. 原告の住所地(義務履行地として)

遺留分侵害額請求訴訟では、原告と被告との間で事実に関する主張を交わし、互いの主張を証拠を提出して裁判官がこれを取り調べます。このような過程を経て、裁判所は判決という終局判断において事実を認定し、遺留分侵害額請求に関する法律の諸規定を適用して判決という形で結論を導き出します。

もっとも、訴訟手続中においても、担当裁判官を介して和解の調整がなされることが通常です。この和解協議において双方が妥結可能な条件を見つけることができた場合には、訴訟上の和解により問題を解決するということも可能です。

なお、日本は三審制が採用されていますので、第一審である地方裁判所の裁判官が出した判決に不服がある場合には、控訴・上告により高等裁判所・最高裁判所に順次不服申立をすることも可能です。

arrow.png

強制執行手続き

訴訟手続きの判決によって被告側に遺留分侵害額に相当する金銭の支払い命令が出たにも関わらず被告側がこれに従わない場合には、強制執行申立て、判決に基づき被告の所有する財産を差し押さえて競売※1にかけ、その売却代金をもって遺留分権利者の債権の弁済に充てることができます。

※1 この点、平成30年の相続法改正前の遺留分減殺請求制度においては、遺産の現物返還が基本とされていましたので、遺留分侵害額請求訴訟の認容判決を受けてそのまま差し押さえ手続きに移行できるという点は、上記改正による大きな変更点ということができます。

まとめ

以上、遺留分侵害額請求に関する問題の解決手続きの概要についてまとめてみました。本記事が、遺留分侵害額請求に関する問題に直面されているあなたのお役に立てば幸いです。

弁護士法人ポートでは、遺留分侵害額の算定をはじめとした遺留分侵害額請求に関するご相談・ご依頼をお受けしております。遺留分侵害額請求についてお困りの方は、ぜひ当事務所の無料法律相談をご利用ください。

宮嶋太郎
代表パートナ弁護士
東京大学法学部在学中に司法試験合格。最高裁判所司法研修所にて司法修習(第58期)後、2005年弁護士登録。勤務弁護士を経験後、独立して弁護士法人ポートの前身となる法律事務所を設立。遺産相続・事業承継や企業間紛争の分野で数多くの事件を解決。

私たちが丁寧にわかりやすくお話します。

法律相談のご予約はこちら

  • お問い合わせフォームへ

法律相談のご予約はこちら

  • お問い合わせフォームへ