遺留分算定における不動産の評価

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私の父(A)は先日亡くなりました。父の相続人は私(X)と、弟(Y)の2名のみです。父の遺産は土地と預金1000万円で、借金や、父から私たちへの生前贈与はありません。父は土地を弟に、預金を私にそれぞれ相続させるとの公正証書遺言を残しました。知人の不動産業者によれば、この土地は4000万円の価値があるとのことです。この評価が正しければ、今回の遺言書により弟が相続した財産額が4000万円であるのに対して、私が相続した金額は1000万円にすぎないため、私は弟に対し遺留分侵害額請求を行いたいと思います。ところが、弟は自宅の固定資産税評価額が3000万円であることを理由に、父の遺言書は私の遺留分を侵害するものではないと主張しています。私と弟で不動産の評価額が対立していますが、遺産に不動産がある場合、遺留分の計算はどのように行えばよいのでしょうか。

遺留分算定と不動産の評価

遺留分の算定には不動産の評価が必要

遺留分権利者の個別的な遺留分額は、「遺留分を算定するための財産の価額」に「個別的遺留分率(=総体的遺留分率×各人の法定相続分)」を乗じて算出されます。

そして、この「遺留分を算定するための財産の価額」の算出をするにあたっては、相続時に存在する遺産の評価を行う必要があり、相談例の場合も、Aさんの預金とマンションの評価額を算出して遺留分の基礎財産の算定を行う必要があります。

このうち、預金については相続開始時の残高が評価額となるので単純です。しかし、相談例のように、遺留分算定の基礎財産に不動産が含まれる場合、その評価額を巡って争いが起きることがあります。では不動産の評価額はどのように算出すればよいでしょうか。

不動産の評価方法

よく利用される不動産の評価方法としては、主に以下の4つの方法があります。順にみていきましょう。

  • 1:固定資産税評価額
  • 2:路線価
  • 3:地価公示価格
  • 4:地価調査標準価格

1 固定資産税評価額

固定資産税評価額とは、固定資産税の基準とされる価格を言います。固定資産税評価額は一般に時価よりも安く、後述する地価公示価格の7割程度と言われています。

2 路線価

路線価とは、相続税・贈与税算出時の基準価格を言います。この路線価についても時価より安く、地価公示価格の8割程度と言われています。

3 地価公示価格

地価公示価格は、国土交通省の土地鑑定委員会が公示する価格で、自由公開市場で取引が行われるとした場合に、取引において通常成立すると認められる価格を言います。この地価公示価格は時価に近い額と言われています。

4 地価調査標準価格

地価調査標準価格は、都道府県知事が公表している価格で、価格の意義や、評価方法は公示価格と同様です。

遺留分算定の基礎となる財産は時価評価を行う

このように、不動産の評価方法は複数ありますが、遺留分算定の基礎となる財産額の算出にあたっては、時価による評価をする必要があります。

この点、固定資産税評価額や路線価をそのまま使ってしまうと、(特に高額な土地などの場合)不動産の評価額は時価よりも安くなりがちです。そこで、遺産分割調停や遺留分調停の現場では、当事者間において、固定資産税評価額等を一定割合で割戻した額(例えば固定資産税評価額を7/10で除した額)を時価として合意をすることがあります。

また、同じく調停においては、これらの評価方法を使わずに、不動産業者による不動産の査定を行い、双方が査定書を証拠として提出した上で、双方の査定額の中間額を時価額とする場合もあります。

不動産の評価額に合意ができない場合

不動産の評価額や評価方法について当事者間で合意ができれば、合意をした額を時価とすることが可能です。しかし、双方の主張する不動産の評価額に大きな差があり、不動産の時価額の合意ができない場合はどうなるのでしょうか。

この場合は、最終的には裁判所が証拠から時価の認定をすることになります。そして、裁判所が不動産の時価を認定する場合には、必要に応じ、不動産鑑定を当事者に対し促すこともあります。

もっとも、不動産の鑑定を行う場合には鑑定費用が発生し、その鑑定費用も安くはないため(少なくとも数十万円の費用は発生します。)、鑑定前に話し合いで評価額の折り合いがつくこともあります。

相談の事例

相談の事例では、Yさんが主張する固定資産税評価額では時価よりも安い可能性が高いため、被相続人A氏が所有していた土地は3000万円以上の価値を有する可能性が高いでしょう。

この評価額が3000万円以上であれば、預金額1000万円を加えると4000万円以上の価額が「遺留分算定の基礎となる財産額」になり、これに相談者Xさんの個別的遺留分の割合である4分の1を乗じれば、Xさんの遺留分額は1000万円以上になります。

したがって、Xさんは、1000万円しか相続していないため、Aさんの作成した遺言書はXさんの遺留分を侵害している可能性が高いと思われます。XさんのYさんに対する遺留分侵害額請求は認められる可能性が高いと言えるでしょう。

まとめ

以上、遺留分算定の基礎となる財産額の算出にあたり必要な不動産の評価方法を説明しました。

遺留分の請求にあたって、不動産の評価方法によっては遺留分請求額も大きく変わる可能性がありますので、不動産の評価方法には注意が必要です。

弁護士法人ポート法律事務所では遺留分侵害額請求を行う方、受けた方からのいずれのご相談ご依頼をお受けしております。本記事をお読みになり,遺留分侵害額請求に関する疑問点やご相談がおありの方は,お気軽に当法人の無料法律相談をご利用ください。

宮嶋太郎
代表パートナ弁護士
東京大学法学部在学中に司法試験合格。最高裁判所司法研修所にて司法修習(第58期)後、2005年弁護士登録。勤務弁護士を経験後、独立して弁護士法人ポートの前身となる法律事務所を設立。遺産相続・事業承継や企業間紛争の分野で数多くの事件を解決。

私たちが丁寧にわかりやすくお話します。

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