相続放棄と遺留分の計算

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私の家族は父(X)と長女(A)と長男である私(B)の3人です。母は既に亡くなっています。父と長女の関係は極めて良好ですが、長男である私とは折り合いが悪く10年近く会っていません。最近、父は、長女に遺産を全て相続させるとの内容の遺言書を作成したようです。このような遺言書を残しても、私には遺留分があると聞きましたが、父が何らかの方法で私の遺留分額を減らすことはできるのでしょうか。

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遺留分を侵害する遺贈等と遺留分侵害額請求

遺言者が遺産の全てを特定の相続人に相続させたいとして遺言書を作成したとしても、遺言者の死後、遺留分権利者から遺留分侵害額請求を受けてしまうと、侵害された遺留分に相当する金銭を遺留分権利者に支払う必要があります。

したがって、XさんがAさんに全財産を相続させると遺言書を遺しても、何も対策をとらなければBさんはAさんより、遺留分相当額の財産を取得することができます。

推定相続人に対する生前贈与が遺留分計算に与える影響

では、XさんがAさんに対する生前贈与を行った場合、Bさんの遺留分額にどのような影響があるでしょうか。

生前贈与と遺留分を算定するための財産の価額

各相続人の遺留分額は、「遺留分を算定するための財産の価額」に個別的遺留分の割合(総体的遺留分率×法定相続分)を乗じて算定することになります。そして、この「遺留分を算定するための財産の価額」の額は、相続開始時の遺産額に、相続開始前1年以内の贈与、または、贈与者及び受贈者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知ってした贈与の価額を加えた額から、相続債務を控除して算出されます。

そうすると、遺言者が財産の全てを取得させたい相続人に対し、相続開始から1年以上前に多額の贈与を行い、相続開始時の遺産額を減らすことによって、「遺留分を算定するための財産の価額」を減らし、ひいては遺留分額を減らすことができるようにも見えます。

相続開始前10年以内になされた特別受益にあたる生前贈与は基礎財産に算入される

しかし、これについて結論を先に述べると、相続開始から1年以上前の贈与であっても、その贈与が相続開始から10年以内になされた特別受益にあたる場合は、遺留分額が減ることにはなりません。この点については、平成30年の相続法改正により、民法1044条3項として明記されました。

生前贈与によって相続開始時の遺産額を減少させても、特別受益に該当する生前贈与が相続開始前10年以内になされたものであれば、その価額が遺留分を算定するための財産の価額に加えられ、結果として遺留分を算定するための財産の価額は減少しません。

そのため、遺言者が遺産額を減らすため、推定相続人に対し生前贈与をしたとしても、生前贈与が相続開始前10年以内になされた特別受益にあたる限り、遺留分額を減らすことは出来ません。

生前贈与に相続放棄を組み合わせた場合

しかし、遺言者から推定相続人に対し生前贈与した上で、遺言者の死亡後に当該受贈者が相続放棄をした場合は話が大きく変わってきます。

この点、生前贈与を受けていた相続人が相続放棄の申述をすると、当該申述者は遡って「相続人」でなかったことになります。このため、当該申述者に対する贈与は、「相続人」に対する贈与であったということにならず、結果として、「特別受益」にあたらなくなります。

この場合は、前述のとおり生前贈与が相続開始より1年以内または遺留分権利者に損害を加えることを知ってされたものでない限り、遺留分を算定するための財産の価額に算定されませんので、贈与によって遺留分額が減少する可能性があります。

相談の事例

相談の事例では、まずXさんが死亡の1年以上前に長女のAさんに対する生前贈与を行い、Xさんの死亡後にAさんが相続放棄をすると、Aさんに対する生前贈与が特別受益にあたらなくなることによって、長男Bさんの遺留分額が減少する可能性があります。

もっとも、XさんがAさんに生前贈与をするにあたって、X・Aさんのいずれとも、Bさんに損害を加えることを知っていたと認定された場合は、贈与額が遺留分を算定するための財産の価額に算入されることになります。

このため、Bさんとしては、生前贈与当時のXさんとAさんの認識を裏付ける事情や証拠の検討をする必要があるでしょう。

まとめ

以上、相続放棄がなされた場合の遺留分の計算について説明しました。近時、贈与税についての制度改正が続いており、相続対策として生前贈与が活用される遺産相続事例は増加しています。そして、このようなケースで遺留分侵害額請求を行うにあたっては、自己の遺留分がどの程度あるかを計算することが必要となりますが、そのためには本記事のテーマについても理解をしておくことが有益でしょう。

弁護士法人ポート法律事務所では遺留分侵害額請求に関するご相談ご依頼をお受けしております。本記事をお読みになり、遺留分に関する疑問点やご相談がおありの方は、お気軽に当法人の無料法律相談をご利用ください。

宮嶋太郎
代表パートナ弁護士
東京大学法学部在学中に司法試験合格。最高裁判所司法研修所にて司法修習(第58期)後、2005年弁護士登録。勤務弁護士を経験後、独立して弁護士法人ポートの前身となる法律事務所を設立。遺産相続・事業承継や企業間紛争の分野で数多くの事件を解決。

私たちが丁寧にわかりやすくお話します。

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