寄与分について判断された10の実例:相続における特別な貢献の評価とは

相続において、被相続人の財産の維持や増加に特別な貢献をした相続人がいる場合、その貢献を評価して相続分に反映させる制度が「寄与分」です。しかし、どのような場合に寄与分が認められるのか、具体的にイメージすることは難しいかもしれません。

本記事では、実際の裁判例を通じて、寄与分について判断された10の事例を紹介します。寄与分が認められたもの、否定されたもの双方を紹介しています。これらの事例を通じて、寄与分制度の運用実態と、どのような貢献が評価されるのかを理解しましょう。

1. 長期にわたる介護が評価された事例

東京高等裁判所平成22年9月13日決定

この事例では、妻による被相続人の入院中の看護や死亡直前半年間の介護が評価されました。特に以下の点が考慮されました:

  1. 家政婦などを雇って当たらせることが相当とされる状況下での介護
  2. 13年余りの長期間にわたる継続的な介護

裁判所は、これらの行為が同居の親族の扶養義務の範囲を超えて相続財産の維持に貢献したと判断し、妻に寄与分を認めました。

2. 会社への資金提供が評価された事例

高松高等裁判所平成8年10月4日決定

この事例の特徴は以下の通りです:

  1. 被相続人が創業した株式会社は実質的に個人企業に近い状態だった
  2. 会社と被相続人は経済的に極めて密接な関係にあった
  3. 経営危機にあった会社へ相続人が資金提供をした

裁判所は、会社への援助と被相続人の資産の確保との間に明確な関連性があると判断し、相続人の寄与分を認めました。

3. 家業と被相続人の生活支援が評価された事例

盛岡家庭裁判所平成4年10月6日審判

この事例では、被相続人の長男の妻(養女)の以下の行為が評価されました:

  1. 家業である農業への従事
  2. 工員として得た収入による被相続人らの生活支援
  3. 被相続人の療養看護

これらの総合的な貢献が評価され、寄与分が認められました。

4. 相続開始後の貢献は評価されないとした事例

東京高等裁判所昭和57年3月16日決定

この事例は、寄与分の判断基準時を示した重要な判例です:

  1. 寄与分は相続開始時を基準として考慮すべき
  2. 相続開始後に相続財産を維持又は増加させた貢献は寄与分として評価されない

5. 共働き夫婦の財産形成への貢献が評価された事例

大阪家庭裁判所昭和51年11月25日審判

この事例では以下の点が考慮されました:

  1. 妻が婚姻中継続して勤務し、被相続人と同等以上の収入を得ていた
  2. 婚姻期間中に得た財産が被相続人名義になっていても、実質的には夫婦の共有財産と考えられる

これらの点を踏まえ、妻に寄与分が認められました。

6. 農地の耕作継続が評価された事例

大阪家庭裁判所昭和50年3月26日審判

この事例の特徴は以下の通りです:

  1. 遺産の一部である土地耕作権に関する判断
  2. 長男が被相続人と共に長年土地を耕作し続けた
  3. 他の共同相続人は特に寄与していない

裁判所は、耕作権を長男の寄与分として認め、遺産分割の対象から除外しました。

7. 訴訟活動による財産保全が評価された事例

大阪家庭裁判所平成6年11月2日審判

この事例では、相続人の以下の行為が評価されました:

  1. 被相続人の生前、被相続人に関わる財産に関する訴訟で証拠収集に奔走
  2. 勝訴判決を得ることに貢献

これらの行為が遺産の維持について特別の寄与があったと評価され、寄与分が認められました。

8. 家業の発展への貢献が評価された事例

福岡家庭裁判所平成4年9月28日審判

この事例では、以下の点が評価されました:

  1. 被相続人の家業(薬局)経営への従事
  2. 薬局を会社組織化し、経営規模を拡大
  3. 店舗の新築など、事業の発展に貢献

これらの貢献が特別の寄与に当たるとして、遺産の約3割(3000万円)の寄与分が認められました。

9. 代襲相続人や配偶者の寄与が認められた事例

東京高等裁判所平成元年12月28日決定

この事例は、寄与分の認定範囲を広げた重要な判例です:

  1. 原則として寄与行為は相続人自身が行う必要がある
  2. 代襲者(被代襲者の子)の寄与に基づき代襲相続人に寄与分を認める可能性
  3. 相続人の配偶者や母親の寄与が相続人の寄与と同視できる場合、これを相続人の寄与分として考慮する可能性

注意点:
この判例は平成元年のものですが、現在では法制度が変更されています。平成30年の民法改正により、令和元年7月1日以降に開始した相続については、相続人の配偶者による寄与の問題は「特別寄与料」の制度として別途扱われることとなりました。この制度により、相続人でない配偶者等の貢献も適切に評価され、公平な相続が実現されることが期待されています。

したがって、現在では相続人の配偶者による寄与は、寄与分としてではなく特別寄与料として扱われる可能性が高いことに注意が必要です。ただし、代襲相続人に関する判断部分は、現在でも参考になる可能性があります。

10. 妻の稼働による財産形成への貢献が評価された事例

神戸家庭裁判所昭和62年9月7日審判

この事例では、妻の以下の貢献が評価されました:

  1. 25年9か月余りの婚姻期間中、12年9か月稼働
  2. 被相続人の収入の3分の1ないし2分の1程度の収入を得る
  3. 被相続人の土地購入及び建物建築に協力

これらの行為が特別の寄与に当たるとして、遺産の3分の1に相当する額が寄与分として認められました。

まとめ

以上の事例から、寄与分が認められるためには、単なる日常的な協力を超えた特別な貢献が必要であることがわかります。また、その貢献が被相続人の財産の維持や増加に直接的に結びついていることも重要です。

寄与分の問題は、相続において非常にデリケートな問題となることがあります。自分の貢献が正当に評価されないのではないかという不安や、逆に他の相続人の主張する寄与分が過大ではないかという疑念など、様々な課題が生じる可能性があります。

このような複雑な問題に直面した際には、経験豊富な弁護士に相談することをお勧めします。弁護士法人ポート法律事務所では、寄与分を含む相続に関する様々な問題について、専門的なアドバイスを提供しています。お気軽にご相談ください。

宮嶋太郎
代表パートナ弁護士
東京大学法学部在学中に司法試験合格。最高裁判所司法研修所にて司法修習(第58期)後、2005年弁護士登録。勤務弁護士を経験後、独立して弁護士法人ポートの前身となる法律事務所を設立。遺産相続・事業承継や企業間紛争の分野で数多くの事件を解決。

私たちが丁寧にわかりやすくお話します。

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