法定相続人とは?その範囲・順位・割合をわかりやすく解説

法定相続人とは、法律で定められた相続人のことをいいます。

遺産相続においては、

  1. 円滑に遺産分割協議し遺産を公平に分配する
  2. 相続放棄をするかどうか判断する
  3. 遺留分侵害額請求をする
  4. 「争族」を避けるため遺言作成する
  5. 相続税の申告が必要かどうかを判断する

など、あらゆる場面で法定相続人に関する正しい知識が不可欠となります。

どの範囲の親族が法定相続人となるのか、相続の優先順位はあるか、それぞれの法定相続人の取り分の割合はどれくらいなのか。

この記事では、遺産相続において非常に重要な意味を持つ、法定相続人に関する基本知識を、相続事件を日々担当している弁護士がわかりやすく解説します。

法定相続人とは

相続人とは、被相続人(相続される人)が亡くなったときに、被相続人に帰属していた一切の相続財産(権利・義務)を受け継ぐ人のことです。

(相続の一般的効力)
第八百九十六条 相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。

引用元:e-Gov法令検索

誰が相続人となるかは、民法という法律によって定められています。このため、民法に定められた相続人のことを一般的には法定相続人という呼び方をします(したがって「法廷相続人」という表記は誤りです。)。

法定相続人の範囲

それでは、どのような範囲の人が法定相続人となるのでしょうか。民法が定める法定相続人の範囲は次のとおりです。

配偶者は常に相続人となる

被相続人の配偶者は、常に相続人となる資格があります。配偶者とは、婚姻関係にある夫または妻をいいます。したがって、事実婚状態にある「内縁の妻」や「内縁の夫」は法定相続人とはなりません。

関連記事:内縁の妻と相続

(配偶者の相続権)
第八百九十条 被相続人の配偶者は、常に相続人となる。この場合において、第八百八十七条又は前条の規定により相続人となるべき者があるときは、その者と同順位とする。

引用元:e-Gov法令検索

配偶者の法定相続分は?

配偶者の法定相続分は、次のとおりです。配偶者以外に誰が相続人となるかで異なります。

  1. 配偶者のみが相続人:配偶者が全部相続
  2. 配偶者と子が相続人:配偶者が1/2、子が1/2
  3. 配偶者と直系尊属が相続人:配偶者が2/3、直系尊属が1/3
  4. 配偶者と兄弟姉妹が相続人:配偶者が3/4、兄妹姉妹が1/4

なお、昭和55年以前の相続については配偶者の法定相続分が上記と異なりますで、注意が必要です。

配偶者以外の法定相続人(血族相続人)

被相続人に配偶者がいるかどうかに関わらず、次のうち最上位のグループに属する者は相続人となる資格があります。このような配偶者以外の法定相続人のことを血族相続人と言います。

(子及びその代襲者等の相続権)
第八百八十七条 被相続人の子は、相続人となる。
2 被相続人の子が、相続の開始以前に死亡したとき、又は第八百九十一条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その相続権を失ったときは、その者の子がこれを代襲して相続人となる。ただし、被相続人の直系卑属でない者は、この限りでない。
3 前項の規定は、代襲者が、相続の開始以前に死亡し、又は第八百九十一条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その代襲相続権を失った場合について準用する。

(直系尊属及び兄弟姉妹の相続権)
第八百八十九条 次に掲げる者は、第八百八十七条の規定により相続人となるべき者がない場合には、次に掲げる順序の順位に従って相続人となる。
一 被相続人の直系尊属。ただし、親等の異なる者の間では、その近い者を先にする。
二 被相続人の兄弟姉妹
2 第八百八十七条第二項の規定は、前項第二号の場合について準用する。

引用元:e-Gov法令検索

第1順位:被相続人の子及びその代襲者(孫・ひ孫)

被相続人の子は、相続人となります。被相続人子のには、実子だけでなく養子も含みます。後述のとおり、被相続人が死亡したときに胎児であったが、その後生まれた子も含まれます(民法886条)。

被相続人の子の「代襲者」とは、民法887条2項または3項の規定によって、代襲相続人となる者をいいます。例えば、被相続人に子と孫がいて、被相続人より子が先に死亡していた場合の孫などが典型例です。

関連記事:代襲相続とは

子の法定相続分は?

子が相続人となるときの法定相続分は、次のとおりです。配偶者相続人がいるかどうかで法定相続分は異なります。

  1. 配偶者がいない:子が全部相続
  2. 配偶者がいる:配偶者が1/2、子が1/2

なお、相続人となる子が2人以上いるときは、子全体に割り当てられる上記相続分を人数で割ったものが各自の法定相続分ということになります。

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第2順位:被相続人の直系尊属

被相続人の子や代襲者(第1順位の相続人)がいない場合、被相続人の直系尊属が相続人となります。直系尊属とは、自分より前の世代で直通する系統の親族のことをいい、被相続人の父母や祖父母がこれにあたります。

但し、親等の異なる直系尊属が複数いる場合には、被相続人に近い親等の直系尊属が優先されます。例えば、被相続人の父母と祖父母が生存している場合には、父母が法定相続人であり、祖父母には相続権がありません。

直系尊属の法定相続分は?

直系尊属が相続人となるときの法定相続分は、次のとおりです。配偶者相続人がいるかどうかで法定相続分は異なります。

  1. 配偶者がいない:直系尊属が全部相続
  2. 配偶者がいる:配偶者が2/3、直系尊属が1/3

なお、相続人となる直系尊属が2人以上いるときは、直系尊属相続人全体に割り当てられる上記相続分を人数で割ったものが、各自の法定相続分ということになります。

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第3順位:被相続人の兄弟姉妹及びその代襲者

被相続人の子や代襲者(第1順位)がおらず、かつ、被相続人の直系尊属(第2順位)もいない場合には、被相続人の兄弟姉妹が相続人となります。

また、被相続人の兄弟姉妹が相続の開始以前に死亡するなどしていた場合、その代襲者(甥・姪)が相続人となります。但し、兄弟姉妹の場合には、2世代にわたる代襲(再代襲)による相続権は認められません(代襲相続人となるのは被相続人の甥と姪までということです)。

兄弟姉妹の法定相続分は?

兄弟姉妹が相続人となるときの法定相続分は、次のとおりです。配偶者相続人がいるかどうかで法定相続分は異なります。

  1. 配偶者がいない:兄弟姉妹が全部相続
  2. 配偶者がいる:配偶者が3/4、兄妹姉妹が1/4

なお、相続人となる兄弟姉妹が2人以上いるときは、兄弟姉妹相続人の全体に割り当てられる上記相続分を人数で割ったものが、各自の法定相続分ということになります。

但し、被相続人と父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹(いわゆる異母・異父きょうだい。半血の兄弟姉妹ということもあります)と、父母の双方を同じくする兄弟姉妹(全血のきょうだい姉妹)がともに相続人となるときは、前者(半血の兄弟姉妹)の相続分は後者(全血の兄弟姉妹)の半分として計算します。

法定相続人と法定相続分の具体例

法定相続人と法定相続分の計算の具体例を、練習問題形式で3つ用意しました。問題部分をクリックすると答えを確認できますので、理解度のチェックに役立ててください。


【問題1】
Aさんには、配偶者と子供2人、父親がいる。相続人として誰がいるか、また、その人々の法定相続分はいくらか。

【答え】
配偶者(1/2)、子供2名は各1/4


【問題2】
Bさんは、子供がいない未婚であり、父母と祖母が存命である。相続人として誰がいるか、また、その人々の法定相続分はいくらか答えよ。

【答え】
父(1/2)、母(1/2) 。親等の近い父母が優先なので祖母は相続人とならない。


【問題3】
Cさんには、配偶者と1人の子がいる。そのほかに、既に死亡した1人の子供がおり、その死亡した子の子(孫)が1人いる。相続人として誰がいるか、また、その人々の法定相続分はいくらか。

【答え】
配偶者(1/2)、存命中の子(1/4)、存命中の孫(1/4)。存命中の孫は代襲相続により相続人となる。

同時存在の原則とその例外

同時存在の原則とは

相続人は、被相続人が亡くなったときにはじめて、被相続人の財産を承継します。そのため、相続人は、被相続人が亡くなったときに存在していなければなりません。これを同時存在の原則といいます。

したがって、例えば、被相続人の妻が被相続人よりも先に死亡していた場合には、妻が夫の相続人となることはありません。

胎児に関する例外

以上のような同時存在の原則には、例外として、胎児の取り扱いがあります。

一般的には、胎児はまだ出生しておらず、母親のお腹の中にいる段階のため、「人」として取り扱われることはありません。しかし、相続に関しては、被相続人(夫)が亡くなった時点で、妻のお腹の中に胎児が存在し、その後無事に生まれた場合には、被相続人(夫)が亡くなった時点で胎児が「人」として存在していたものとみなされます。

つまり、この場合、胎児は、被相続人(夫)が亡くなったときに「人」として生存していたものと取り扱われ、相続人となることができることになります。

法定相続人の調べ方と相続関係図

法定相続人が誰なのか、どのように調べたらよいでしょうか。

法定相続人調査の基本は戸籍の取得と記載内容の整理

実際の相続が起きた時、誰が法定相続人となるかを具体的に調査することを相続人調査と呼びます。我が国では、出生から死亡までの身分に関する事項が戸籍に記録されているため、相続人調査は、関係者の戸籍の取得と記載内容の整理が基本的な調査方法ということになります(但し、戸籍のない外国人が相続人となる場合や、死後認知の場合など、戸籍調査だけでは直ちにすべての相続人が判明しないケースもあります。)。

戸籍の取得や記載内容の整理については、法改正により戸籍の様式が過去何度か変更されていることや、関係者の本籍地が変更されているなどといったケースもあるため、調査漏れが無いように慎重に進めることが重要です。特に、遺産が何世代も未分割となっており相続人の数が多い場合などは調査が複雑になりがちなので、専門家にご相談になることをお勧めします。

調査結果は関係図にまとめてわかりやすく整理を

法定相続人を調査した結果得られた情報は、相続関係図という資料に整理することをおすすめします。

相続関係図は、関係者について被相続人との続柄を図解し、それぞれの氏名、生年月日、住所、法定相続分その他の情報を記載することによって、当該相続に関する重要な情報を一覧できるようにした資料です。

相続関係図を共同相続人間で共有することで、相続手続きのスムーズな進行や、相続人間のトラブル防止に役立てることが可能となります。

さらに、平成29年5月からは、作成した相続関係図を裏付け資料とともに法務局に提出して確認を受けることで、登記官にその一覧図に認証文を付した写しを無料で交付してもらい、これを金融機関や不動産の登記手続きに利用できる法定相続情報証明制度も始まっています。

法定相続人の相続権がなくなる場合?

相続人の欠格と廃除

民法の規定により法定相続人となりうる者であっても、その人物に相続欠格事由がある場合や、廃除の手続きによって相続人としての資格を剥奪される場合には、相続権を得られないことがあります。前者を相続欠格、後者を相続人廃除といいます。

  1. 相続欠格:民法が定める欠格事由がある場合に、特定の人が当然に相続権を失う制度
  2. 相続人廃除:民法が定める廃除事由がある場合に、被相続人の意思に沿って特定の人の相続権を失わせる制度(家庭裁判所の審判が必要)

相続放棄

民法の規定により法定相続人となりうる者であっても、必ず相続をしなければいけないということはありません。

例えば、被相続人に多額の借金がある場合に、相続人としてはこの多額の借金を背負いたくないと考えるのが自然です。そこで、民法は、相続人が、被相続人が亡くなり、自分が相続人となったことを知った日から原則として3か月以内に、家庭裁判所に対して、相続を放棄したいと申し出をすれば、その相続に関して初めから相続人とならなかったものとして取り扱うことができる規定を設けています。これを相続放棄といいます。

法定相続人がいない場合

被相続人に身寄りがなく、民法の規定により法定相続人となりうる者が不存在である場合、相続財産の取り扱いはどのようになるでしょうか。

相続財産法人

民法によれば、相続人のあることが明らかでないときは、相続財産に法人格が付与され法人となることが規定されています。これを相続財産法人といいます。

相続財産法人には、相続財産管理人が選任され、その公告後2ヶ月以内に相続人のあることが明らかにならなかったときは、相続財産管理人が相続財産法人を清算する手続きを行います。

また、清算と併行して、相続人の捜索の公告が行われ、それでも相続人としての権利を主張する者が現れないときは、次の特別縁故者制度によって処分される部分を除き、清算終了後の残余財産は国庫に帰属することになります。

特別縁故者に対する財産分与制度

特別縁故者とは、相続人以外の者で被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者、その他被相続人と特別の縁故関係があった者をいいます。

法定相続人がおらず、家庭裁判所が相当と認める場合に、このような被相続人と緊密な関係にあった人物に対し、相続財産の残余を取得させる制度が特別縁故者への財産分与制度です。

参考:特別縁故者による財産分与制度の概要

まとめ

この記事では、配偶者や子供、父母や兄妹姉妹などのうち誰が法定相続人となるのか、各法定相続人が得る相続割合、法定相続人の調べ方について解説しました。また、本来法定相続人であるはずの人の相続権が失われる制度や、法定相続人がいない場合の取り扱いについても説明しています。

誰が法定相続人となるかという知識は、その相続において、そもそも誰が当事者となるのかという極めて基本的な問題に関係します。もし法定相続人の範囲や順位など関する問題や不安があれば、法律の専門家である弁護士にご相談ください。弁護士は、あなたの権利を守り、円満な解決を目指してサポートします。

宮嶋太郎
代表パートナ弁護士
東京大学法学部在学中に司法試験合格。最高裁判所司法研修所にて司法修習(第58期)後、2005年弁護士登録。勤務弁護士を経験後、独立して弁護士法人ポートの前身となる法律事務所を設立。遺産相続・事業承継や企業間紛争の分野で数多くの事件を解決。

私たちが丁寧にわかりやすくお話します。

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