遺留分侵害額請求をされたら?弁護士が教える実践的対処法

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ほかの相続人から遺留分侵害額請求の通知が届いた!

このような場合、通知を受けた相続人はどう対応すればよいでしょうか。もちろん、請求内容が正しく、資金に余裕があるというときにはそのまま支払いをすれば問題はありません。しかし、

  • 「請求された金額に納得がいかない」
  • 「支払いたいが資金がない」

などのケースでは、遺留分権利者からの当初請求を拒否しつつ、交渉・調停・訴訟を通じて最終的な解決の着地点を模索する必要があります。

そこで、今回は、遺留分侵害額請求を受けた方へ向けて、遺留分侵害額計算方法の概略、遺留分侵害額請求の主要な争い方(支払額を減らす方法)、資金不足の際の対応策など、遺留分侵害額請求を受けた場合の対処法について、遺留分問題に強い弁護士が徹底的に解説します。

なお、被相続人の方が生前に行うことのできる遺留分対策については、以下の記事も参考にしてください。

遺留分侵害額請求の仕組み

遺留分とは

遺留分とは、一定範囲の相続人が、相続に際して最低限保障されている相続財産に対する取り分のことをいいます。被相続人の財産を誰に・いくら配分するかということは、被相続人自身が自らの考えによって自由に決められるというのが原則です。しかし、我が国の民法は、その例外として、相続人の生活保障の観点から遺留分制度をもうけ、被相続人の意思によっても変更することのできない最低限度の取り分が各相続人に与えられています。

参考:遺留分の基本知識をわかりやすく解説

遺留分侵害額請求とは

各遺留分権利者が実際に被相続人から取得した財産※1が、民法が定める遺留分額に満たない場合、当該遺留分権利者の遺留分は侵害された状態ということになります。

このような場合、遺留分権利者は、遺留分を侵害する遺言による財産の取得者(受遺者、特定財産承継遺言によりにより財産を承継し又は相続分の指定を受けた相続人、受贈者)に対し、遺留分侵害額請求という権利を行使することにより、その侵害額に相当する金銭の支払いを求めることができます。

※1 相続時の取得分だけでなく、生前の特別受益分も含みます。また、相続により承継する負債を控除した正味取得財産です。

遺留分侵害額請求の流れ

遺留分侵害額請求を解決するためには、概ね以下のような流れを辿るのが通常です。

  • 1 請求者からの通知:遺留分権利者は、上記のような計算式に沿って遺留分侵害の有無を計算します。そして、自己の遺留分が侵害されていると考えた場合、まず、遺留分を侵害する贈与や遺言により財産を取得した人に対し、侵害された遺留分に相当する金銭の支払いを求める意思表示を行います。これを遺留分侵害額請求と言い、内容証明郵便等の文書による通知でなされることが一般的です。
  • 2 被請求者による検討:あなたが遺留分侵害額請求を受けたならば、その請求の妥当性を検討します。具体的には、請求者の主張する遺留分侵害額が正確か否かを調査します。
  • 3 交渉:請求に対する合意が可能な場合は、双方で話し合いを通じて解決を図ります。このことを交渉といいます。
  • 4 調停:交渉が上手くいかない場合には、家庭裁判所で調停を行うことができます。調停は、裁判所の調停委員を仲介役に双方が話し合いをする手続きであり、細かな事実関係の争いが少ない事案では解決のための有効な手段となり得ます。
  • 5 訴訟:交渉や調停によって解決できない場合、裁判を申し立てることができます。裁判においては、裁判官が証拠によって事実を認定し、認定した事実に法律を適用して、判決という形で結論を示します。

なお、交渉や訴訟を無視するという対応はすべきではありません。特に、あなたが遺留分権利者から遺留分侵害額請求訴訟を提起され、訴状が届いたにもかかわらずこれを無視して裁判を欠席し続けた場合、裁判所が原告である請求者側の主張を全面的に認め、請求者の主張に沿った判決がなされてしまう可能性が極めて高くなりますので注意してください。

対処法1:遺留分侵害額請求を受けたら最初にチェックすべき3つのポイント

遺留分侵害額請求をされた場合、まず最初にチェックしておくべきポイントを3つ紹介します。もしあなたの受けた通知が次のいずれかの事項に当てはまる場合、請求額が適正かどうかを検討するまでもなく、その遺留分侵害請求そのものが認められない可能性があるからです。

遺留分権利者からの請求か

あなたに対して遺留分侵害額請求をした人が、そもそも、その相続において遺留分を認められる相続人であるかどうかを確認しましょう。

兄弟姉妹からの請求

民法上、遺留分が認められるのは「兄妹姉妹以外の相続人」です(民法1042条1項)。つまり、被相続人の兄弟姉妹については、兄弟姉妹が法定相続人となる場合でも遺留分までは認められません。したがって、兄弟姉妹相続人からなされた遺留分侵害額請求については、そもそも支払いの必要がないということになります。

相続欠格者・被廃除者からの請求

欠格とは、ある相続人につき民法が定める一定の事情が存在する場合に、当該相続人の相続権が当然に失われるという制度です(民法891条)。

廃除とは、遺留分を有する推定相続人が被相続人に虐待等を行った場合につき、被相続人自身の請求や、被相続人の遺言を受けた遺言執行者の請求を受けて、家庭裁判所の審判によりその推定相続人の相続権を失わせるという制度です(民法892条・同893条)。

遺留分侵害額請求の請求者に相続欠格事由がある、あるいはその請求者が廃除の審判を受けた者である場合には、請求額の多寡に関係なく、その請求に応じない※2という対応が考えられます。

※2 ただし、相続欠格事由の有無自体が争いになることがあります。また、欠格者や被廃除者の直系卑属(子や孫)が代襲相続人として別途遺留分侵害額請求を行うことは可能です。

あなたが支払うべき遺留分か

あなたが受けた遺留分侵害額請求は、本当にあなたに対してなされるべきものなのか、つまりその遺留分侵害額請求の「請求先が正しいかどうか」を確認しましょう。

被相続人の贈与や遺言により財産を取得した人が複数いる場合、遺留分権利者は、民法の定める正しい相手方に遺留分侵害額請求をする必要があります。そして、民法の定める順番に反してなされた遺留分侵害額請求の場合には、本当に遺留分を侵害された遺留分権利者からの請求であったとしても、その請求に応じるべきは他の受贈者や受遺者であって、あなたには支払いの義務がない(あなたは遺留分義務者ではない)ということがあり得るのです。

具体的に誰が遺留分義務者となるかについては、以下の記事を参考にしてください。

参考:誰に請求すればよい?遺留分侵害額請求の請求先・相手方

消滅時効期間や除斥期間は経過していないか

遺留分侵害額請求が、消滅時効期間や除斥期間を経過した後になされたものである場合、あなたはそのことを理由に請求を拒否することができます。

そこで、遺留分侵害額請求については、次の期間制限内になされたものであるかどうかを確認しましょう。

  1. 遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年(消滅時効期間)
  2. 相続開始の時から10年(除斥期間)

また、遺留分侵害額請求を受けたがその後は交渉がないまま5年が経過した場合にも、一般の金銭債権の消滅時効が完成しているという場合もあります。

関連記事:遺留分侵害額請求権の消滅時効と除斥期間。期間制限にご注意ください。

対処法2:請求された遺留分侵害額が適正かをチェック

遺留分侵害額の計算方法

遺留分侵害額の計算方法は、簡略化すると、次のようにして計算することになります。

もっと詳しく:遺留分侵害額の計算方法を弁護士が解説【具体例付き】

遺留分侵害額=(××)-

  • ア:遺留分を算定するための財産の価額
  • イ:総体的遺留分率
  • ウ:個別の権利者の法定相続分
  • エ :遺留分権利者が受けた遺贈または特別受益の価額
  • オ :遺留分権利者が相続により取得する財産の価額
  • カ :遺留分権利者が承継する相続債務の額

この計算式からも分かるとおり、遺留分侵害額が少なくなるためには、"ア、イ、ウ、カ"の要素が減少し、"エ、オ"の要素が増加することが計算上有効といえます。

そこで、遺留分侵害額請求を受けた場合には、請求者の主張する"ア、イ、ウ、カ"の要素が過大でないか、"エ、オ"の要素が過少でないかをチェックするのが基本戦略となります。

以下では、争点となりやすい要素について、順次解説します。

遺留分を算定するための財産の価額(ア)が過大でないか

遺留分を算定するための財産の価額は、民法1043条1項により、

  • ⅰ「被相続人が相続開始の時において有した財産の価額」に
  • ⅱ「贈与した財産の価額」を加算し
  • ⅲ「債務の全額」を控除

して計算するとされています。

このため、上記ⅰやⅱについて、そもそも被相続人の遺産でないものや、贈与財産でないものが含まれていないか、ⅲについて、控除するべき相続債務が見落とされていないかを確認する必要があります。特にⅱについては、平成30年の相続法改正により、相続人に対する贈与であっても、原則として算入できるのは相続開始前10年以内になされた贈与の価額に限定されました。請求者がこのことを知らず、改正前のルールに基づいて遠い昔の贈与の価額を算入している可能性がありますので、よく注意してください。

また、上記ⅰやⅱの財産の評価額が過大でないかという点についてもチェックが必要です。次のような種類の財産については、請求者が採用した評価の方法や評価時点によって、法律上認められる金額よりも高い評価額となっていることがあり得ますので、必要に応じて専門家に相談するなどし、評価にについての意見を聞くことも有効です。

(評価について注意を要する財産の例)

  1. 不動産
  2. 非上場株式
  3. 外貨建ての金融商品

遺留分割合(イ、ウ)が誤っていないか

遺留分の割合は、相続人の構成によって民法に定められた総体的遺留分率(イ)と、請求者の法定相続分(ウ)を構成要素とします。

通常、この部分に誤りが含まれていることは少ないですが、遺留分権利者本人が専門家に相談せず自ら遺留分の計算をしたようなケースでは、稀に誤りが含まれていることがありますので、念のためチェックをしておくことが必要です。

特に、法定相続人が被相続人の直系尊属(父母や祖父母)だけで構成される場合、相続人に全体として認められる総体的遺留分は1/3に限られます。このようなケースでは、請求者がうっかり1/2として計算している可能性も少なくないため、よく注意しましょう。

請求者の取得財産(エ、オ)が過少でないか

遺留分侵害額請求者が、被相続人から生前贈与として受けた特別受益や遺言によって取得した財産(エ)、遺言の対象となっておらず共同相続人間で分配した遺産(オ)については、遺留分侵害額を減少させる要素となるため、請求者の計算上、これらの見落としがないかを確認しておく必要があります。

この際、特に注意しておくべきは、遺留分侵害額請求者が受けた特別受益のうち相続開始から10年以上前のものです。相続開始から10年以上前の特別受益となる贈与については、遺留分を算定するための財産の価額には原則として算入されませんが、遺留分「侵害額」の計算においては、遺留分侵害額を減少させる要素として計算に含めるものと考えられています。

以上のほか、請求者の取得財産が不動産や非上場株式などである場合には、請求者の主張する評価額がは過少でないかを検討すべきです。

遺留分権利者が承継する相続債務額(カ)が過大でないか

被相続人の相続債務のうち、遺留分権利者が承継する債務の額(カ)は、遺留分侵害額を増加させる要素となるため、これが過大でないかをチェックしてください。

なお、最高裁判所平成21年3月24日判決によれば、相続人のうちの一人に遺産すべてを相続させる旨の遺言がされた場合、遺留分侵害額の算定においては、遺留分権利者の法定相続分に応じた相続債務額を遺留分の額に加算することは許されないとしています。これは、上記のような遺言がなされた場合、相続債務の債権者との関係とは別に、共同相続人間の内部関係では、相続債務は遺産を取得する相続人がすべて負担することになると理解されるためです。

関連記事:「全部を相続させる」遺言と遺留分侵害額計算における相続債務

対処法3:請求された遺留分侵害額を支払う資金が足りないときは

請求者が主張する遺留分侵害額が適正である場合、あなたはその侵害額に相当する金銭を請求者に支払う必要があります。しかし、あなたが被相続人から取得した財産が、不動産や株式など、金銭以外の財産ばかりというようなケースでは、相続人の預貯金を含めても、すぐには遺留分を支払うだけの資金が用意できないということもあり得ます。

こうした場合、基本的には、相続財産の一部を売却したり、これらを担保にして金融機関から借り入れをするなどし、支払いのための資金調達を行うことが必要となります。ただ、このような資金調達に先立ち、あるいは資金調達活動と並行して、次のような対処法を検討してみてください。

請求者に対する他の債権と相殺する

あなたの遺留分侵害額請求者に対する貸付金があるなど、あなたが何らかの金銭債権を有している場合、当該債権と遺留分侵害額請求にかかるあなたの支払債務とを対当額で相殺することによって、新たな資金調達なく、相殺された金額に相当する支払義務を減少させることができます。もっとも、この場合、相殺の結果として、あなたが遺留分侵害額請求者に対して有していた債権も同時に消滅することとなります。

請求者が承継する債務について「免責的債務引受け」をする

平成30年の相続法改正により、遺留分侵害額の負担者である受遺者や受贈者が、遺留分権利者が承継する相続債務に関し、第三者弁済や免責的債務引受をした場合の取扱いについて新たな規定が設けられました。

民法1047条3項

3 前条第一項の請求を受けた受遺者又は受贈者は、遺留分権利者承継債務について弁済その他の債務を消滅させる行為をしたときは、消滅した債務の額の限度において、遺留分権利者に対する意思表示によって第一項の規定により負担する債務を消滅させることができる。この場合において、当該行為によって遺留分権利者に対して取得した求償権は、消滅した当該債務の額の限度において消滅する。

引用元:e-Gov法令検索

この規定を活用し、例えば返済期間が長期にわたる相続債務のうち遺留分権利者が承継する部分について、遺留分侵害額の請求を受けたあなたが債権者との交渉してこれを免責的に債務引き受けする(これにより遺留分権利者承継債務が消滅する)ことで、あなたは、新たな資金調達をすることなく遺留分権利者に対する支払額を減少させることができます。

期限の許与を裁判所に請求する

遺留分侵害額請求権は、原則として、遺留分権利者から金額を特定して支払を求められた日の翌日から遅延損害金が発生します。しかし、相続財産が直ちに現金化しにくい財産ばかりの場合には、遺留分侵害額の支払資金を用意するためにある程度の時間が必要となり、法的には、その間遅延損害金の負担額が日々拡大するという事態が起こります。

このような事態に対処する方策として、遺留分侵害額を負担する人が申請することで、裁判所が遺留分侵害額の支払いについて一定期間の猶予を与えることができるという期限の許与の制度があります。これも平成30年の相続法改正で新設された制度です。

民法1047条5項

5 裁判所は、受遺者又は受贈者の請求により、第一項の規定により負担する債務の全部又は一部の支払につき相当の期限を許与することができる。

引用元:e-Gov法令検索

この規定を活用し、例えば遺留分侵害額請求訴訟の中で支払い期限の許与を裁判所に求めることによって、遅延損害金の拡大防止を検討してみてはいかがでしょうか。

対処法4:不合理な争いは避け、適正額の侵害額請求には誠実に対応する

遺留分が問題となる事件には様々な背景事情があります。遺留分侵害額請求を受けた側であるあなたが、「請求者に支払う金額をとにかく減らしたい。できれば1円も支払いたくない。」などの気持ちになることもあるかもしれません。それ自体はやむを得ないことです。

しかし、遺留分は、被相続人によってさえ侵すことのできない、相続人に保障された非常に強力な権利でもあります。それゆえ、例えば以下のような、法律的に通用する可能性の低い主張に依拠して不合理な争いをすることは、無意味であるだけでなく、遅延損害金の拡大につながるなど、かえってあなた自身を不利な状況に追い込むことにもなりかねません。

効果の期待できない対応や主張の例その理由
遺留分権利者からの内容証明郵便を受け取り拒否 拒否しても通知が届いたことになる
遺言執行費用を遺留分から控除 民法1021条により控除不可
遺言書に「遺留分は認めない」と書いてあるとの主張 当該文言に拘束力なし
寄与分の主張 遺留分の計算上は考慮できない
遺留分侵害額請求自体が権利濫用だ 理論上はありうるが、現実にはほぼ採用されない。
払う資金がないので支払わないとの主張 元金を法的に減らす根拠にはならない
訴状が届いたが無視して裁判に出頭しない 仮に過大な請求でもそのまま認められるリスクあり

「支払うべき金額は支払う。但し、適正額で。」とのスタンスで、侵害額請求には冷静かつ誠実に対応する。実は、これこそが、遺留分侵害額請求に関する紛争を上手に解決するためのもっとも重要な対処法と言えるかもしれません。

まとめ

以上、遺留分侵害額請求を受けた場合の対処法について解説しました。

遺留分侵害額の請求者に遺留分を渡したくない、少なくしたいという方は、本記事を参考に、支払額の減少などにつながる自己に有利な反論が可能かどうかをチェックしていただければと思います。

また、遺留分侵害額請求について直接弁護士に相談してみたいという場合には、当事務所の初回無料法律相談をご検討ください。遺留分問題を始めとした相続に強い弁護士が、関連資料を確認し、あなたのお話をお伺することで、具体的な事案に即したアドバイスをご提供いたします。

宮嶋太郎
代表パートナ弁護士
東京大学法学部在学中に司法試験合格。最高裁判所司法研修所にて司法修習(第58期)後、2005年弁護士登録。勤務弁護士を経験後、独立して弁護士法人ポートの前身となる法律事務所を設立。遺産相続・事業承継や企業間紛争の分野で数多くの事件を解決。

私たちが丁寧にわかりやすくお話します。

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