遺産分割調停の基本

このページでは、次のような方へ向けて、遺産分割調停の基本的事項について弁護士が解説します。

  1. 遺産分割協議がまとまらず、自ら申立人として遺産分割調停を起こしたいと考える相続人の方
  2. 家庭裁判所から遺産分割調停の呼出状が届き、遺産分割調停の当事者とされてしまった相続人の方

遺産分割調停とは

遺産分割調停は、当事者間で遺産分割の話し合いがまとまらないとき、家庭裁判所の家事調停制度を利用して遺産分割の話し合いをすることをいいます。

遺産分割調停

遺産分割の成立には相続人全員の合意が必要となりますが、当事者どうしの話し合いでは、互いに疑心暗鬼になり、話し合いが進展しない場合も少なくありません。

これに対し、遺産分割調停では、調停委員会(裁判官である家事審判官と家庭裁判所が選任した調停委員)が間に入ります。調停委員会は、第三者としての中立・公正な立場から解決に向けた助言をしてくれますので、これにより、遺産分割の話し合いが円滑に進むことが期待できます

遺産分割事件の調停成立率はどのくらい?

平成26年度の司法統計によると、全国の家庭裁判所で終局処理に至った遺産分割事件の総数1万2577件のうち、調停成立により終了した事件数は7515件であり、全体の約60%となっています。しかし、取り下げによる終了が20%強あり、これらの中には前提問題についての訴訟のために一旦調停を取り下げた事案なども多く含まれていると考えられることからすると、実際の調停による解決率は60%よりもかなり高いものと推測されます。

遺産分割調停の流れ

家庭裁判所で行われる遺産分割調停は、概ね次のような流れで進みます。

  1. 遺産分割調停の申立て
  2. 遺産分割調停の事前準備
  3. 遺産分割調停期日
  4. 調停調書の作成または審判への移行

1 遺産分割調停の申立て

遺産分割調停は調停の申立により開始します。調停を起こす相続人(または包括受遺者や相続分の譲受人等)が申立人、その他の共同相続人が相手方となります。申立人は複数でも構いませんが、相手方は意見の対立がある相続人のみならず、遺産分割の当事者となる者全員を相手方とする必要があります。

遺産分割調停の申立ては、家庭裁判所に遺産分割調停の申立書と必要書類(事情説明書や戸籍謄本・不動産登記事項証明書などの資料)を提出して行います。提出先は、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所又は当事者が合意で定める家庭裁判所となります。

調停申立書には、申立の趣旨や理由を記載するほか、被相続人の遺産の内容を一覧にした遺産目録などを添付します。特別受益や寄与分の主張がある場合にはこれを記載することもできます。また、申立手数料として被相続人1名あたり1200円を貼付します。

なお、当事者がいきなり遺産分割審判を申し立てた場合に、家庭裁判所の職権で遺産分割調停に付され、遺産分割調停が開始することもあります。

2 遺産分割調停の事前準備

遺産分割調停期日が指定され、第1回調停期日の呼出状や遺産分割に関する実情の照会書が当事者に送付されます。調停手続きの相手方となった相続人は、これらの書類の送付を受けて遺産分割調停が起こされたことを知ります。この段階で弁護士などの法律専門家に相談し、代理人を依頼することも有効です。

裁判所側でも、事件を担当する家事審判官や調停委員を決め、申立書や当事者より提出された関係資料を前提に、事案の概要等を把握して調停期日の準備をします。

また、そもそも当事者の資格を有しない者や、相続分の譲渡や放棄によって遺産分割調停の当事者の資格を失った相続人がいる場合には、家庭裁判所が排除決定をすることにより当事者の絞り込みを行います。

3 遺産分割調停期日

家庭裁判所に出頭して、遺産分割についての話し合いを進めます。当事者本人の出頭が原則ですが、弁護士が代理人となっている場合には弁護士のみが出頭することもあります。また、住所が遠方で家庭裁判所への出頭が困難な場合、電話会議の方法による参加が認められることもあります。

話し合いにより取り決めるべき事項は遺産分割協議の場合と同様で、主に次のような内容となります。

  1. 相続人の範囲
  2. 分割対象とする遺産の範囲
  3. 遺産の評価
  4. 具体的な取得額(特別受益寄与分を含む)
  5. 遺産を構成する各財産の分割方法(取得者)

これらの事項に関し、各相続人からの資料の提出や口頭での説明により、調停委員に紛争の実情や遺産の状況、当事者の希望を理解してもらいつつ、共同相続人が合意できる分割案の調整をしていきます。なお、遺産分割調停では、紛争の蒸し返しを防ぐため、段階的な合意内容は調書に記録されます。

  1. 【詳しくは】遺産分割調停の進め方(段階的進行モデル)

調停期日の頻度ですが、一般的な事案では、1ヶ月から1ヶ月半に1回程度のペースで話し合いを繰り返します。遺産の範囲については、原則として第3回期日くらいまでに確定することが目標とされています。

4 調停調書の作成または審判への移行

調停期日での話し合いの結果、最終的な合意内容がまとまった場合には、遺産分割調停調書という書面を作成してもらい合意内容を記録にします。これは、任意交渉による遺産分割協議の際の、遺産分割協議書に相当する書面ですが、調停調書の場合には強制執行の根拠となるなど、裁判所外で作成した遺産分割協議書よりも強い効力が認められます。

逆に、話し合いがまとまらない場合には、調停不成立となり、遺産分割審判手続きへ自動的に移行します。なお、事案によっては、調停に代わる審判が出される場合があります。

遺産分割調停と弁護士

この記事のお読みの方の中には、遺産分割調停を行うにあたり、弁護士に代理人を依頼するかどうかを検討されている相続人の方も多いと思います。実際の相談でも、弁護士に依頼するべきでしょうかとのご質問をいただくことは少なくありません。

遺産分割調停手続きでは、代理人弁護士への委任は強制ではありません。したがって、相続人は本人のみで手続きに出頭することも可能です。しかし、代理人弁護士をつけた場合、確かに弁護士費用というコストは必要となりますが、例えば以下のようなメリットを得ることができます。

  1. 相続に関する法律や専門用語の理解が容易になる
  2. 主張の構成や資料の提出に関し、的確な判断が可能となる
  3. 調査や書類作成の負担を軽減できる
  4. 複雑な事案でも手続きの迅速な進行が期待できる

こうしたメリットから、当事務所では遺産分割調停における弁護士の活用をお勧めしております。なお、実際の統計上も、家庭裁判所の遺産分割事件での弁護士の関与率は60%~70%程度と高く推移しています。

宮嶋太郎
代表パートナ弁護士
東京大学法学部在学中に司法試験合格。最高裁判所司法研修所にて司法修習(第58期)後、2005年弁護士登録。勤務弁護士を経験後、独立して弁護士法人ポートの前身となる法律事務所を設立。遺産相続・事業承継や企業間紛争の分野で数多くの事件を解決。

私たちが丁寧にわかりやすくお話します。

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